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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
赤き人形達の舞踏会
112/159

風ノ宮高校文化祭

「おーい、ナリー?どこにいるんだー?」


 ナリが我に返ったのは、零が道路に出て声をかけたその時だった。


「はっ!零、ここだにゃー!」


「ん?ああ、屋根の上か。ちょっと話したいことがあるから、降りてきてくれるか?」


「分かったにゃ!」


 屋根伝いに低い方へと降りていき、隣の十家の郵便ポストの上から道路に降りた。

 零の案内で家の中に入る。現在、14時を回ろうとしていた。


「高くて降りられないー、とか言われるかと思ったけど、よかった、ちゃんと降りられたんだな」


「失礼にゃ!普段からバトルの時はあれくらい高いところまで飛ぶし、第一、降りられないのは子猫の時だけにゃ!」


「そうか?そもそもナリは子猫の時がなかったと思うんだが……」


 そう言われて、ナリは確かにと思った。

 なんとなく、ナリは子猫時代も過ごしたような気分になっていた。


「ま、いいや。ナリ、今日風ノ宮高校の文化祭なんだけど、どうする?一緒に行くか?」


 風ノ宮高校の文化祭。山門有が通っていた高校の、文化祭。


 8月頃、凛がパンフレットとチケットをくれた。

 当初は「1ヶ月後だ」という実感はなかったが、最近になって、その存在の輪郭がはっきりしてきた。


 それも、最近ナリの周りに現れ始めた「赤い靴を履いた生前の自分達の姿」が原因だった。


 彼らは式神のような存在で、攻撃すると消えてしまう性質があった。

 これまで、零、亥李、参華、朝日の生前の姿が現れた。


 そのどれも、依り代は風ノ宮高校文化祭のパンフレットやチケットだった。まるで、何者かに招かれているかのように。


「凛が何してるのかは気になるし、この前現れた川峰創(おれ)を倒した時に、チケットが出てきただろ?罠かもしれねえけど、気になるんだよな。ただ……」


 零が気まづそうに、ナリを見た。


「お前、あまり行きたくはないだろ?行くなら人間の姿になるし、その姿で昔の級友に会うかもしれないし……無理しなくていいぞ?俺が様子見てくるから――」


「行くにゃ」


 ナリは零の目を見つめ、ハッキリと宣言した。


「そうなのか?でも……」


 ナリは覚悟を決めたように、《異形》し人間の姿になった。

 心配そうに言葉を続けようとする零を、ナリが目で制す。


「私だって、あれは何なのかは気になる。零の言う通り、罠かもしれないけど……あれが表沙汰になったら、まずいと思うんだ。死んだ人間が踊ってるなんて、皆びっくりして混乱しちゃうし……

 それに、私自身が行きたいんだ。私が死んだ後の風ノ宮高がどうなったのか、知りたい。零、行かせて!」


「ナリがいいならいいけど……無理すんなよ?」


 零はそう言って、パンフレットやチケットの準備をし始めた。


 ナリも部屋に帰って準備をし始める。キャスケットを深くかぶり、顔を帽子のつばで隠した。


(行くんだ。行って、確かめるんだ。あの、赤い靴の奴らの真相を……そして、満咲のことを!)


 パンフレットを固く握りしめた。玄関先に出て、固くブーツの紐を結ぶ。

 玄関には、ナリの決意を褒め称えるように、日差しがナリを照らしていた。



 風ノ宮高校に向かう道中、保護者であろう夫婦や、受験生と思われる3人組を見かけた。


「ねえねえ、まずどこ行く?」

「とりあえず吹部だろ?あとは……」

「いやいや、最初は3Dのカフェだろ!次は1Aのコスプレ喫茶で……」


 男子2人、女子1人の3人組が、ナリと零の前を歩いていた。彼らは信号待ちの最中、楽しそうに会話していた。


「ねえ、これ、山門有だよね?」


 3人のうち女子が、電信柱の貼り紙を指差した。


 信号待ちで一緒になったナリが、ピクっと反応した。

 零が少し、気遣うような目でこちらを見た。


 零もナリも、3人組が何を言うか、黙って様子を伺うことにした。3人組は、その貼り紙を覗き込むように見ていた。


「山門有?って、誰?」


「ほら、あれだよ。1年前の11月に行方不明になったっていう、高二の人」


「風ノ宮高校の生徒だよな?確か」


「先輩じゃん!やべ、あれとかこれとか言っちまったよ」


「大丈夫、私達が入学する頃にはもう卒業してるから……バレやしないって!」


 女の子の言葉に、ナリが気まづそうな顔をした。


「山門有、探しています。家出した時にいなくなりました。心当たりのある方はこちらの連絡先まで……連絡先、山門有の父、山門剛(やまかどたけし)、だって」


「そのお父さん、町中でよく見るよね。すごーく疲れた顔して、ぼーっと貼り紙貼ってるの」


「ああ、見た見た。あの人歩くの遅くて、よく転んだり人にぶつかったりするだろ?もう諦めたらいいのになー」


「まあな。1年前だろ?生きてたとしても、1年間父親に連絡無しって、家出でも父親に対して冷淡だよな。あんだけ毎日探してる父親を放置して、自分の好き勝手してるなんて」


 信号が青になった。前の3人が、信号を渡っていく。


 ナリはとても、前を歩けなかった。


「…………大丈夫か?」


 零が心配そうに顔を覗き込んだ。ナリの強ばった顔が、少し緩んだ。


「大丈夫だよ。ごめん、心配かけて」


「あいつら、有が行方不明だからって好き放題言いやがって。俺が一つ、あいつらに何か言ってこようか?」


「いいよ。あの子たちは文化祭楽しみにしてるんだから、水を差しちゃったら悪いし。それに……事実だった。家出して、死んじゃって、1年間父親に何の連絡もしてない」


「それは……仕方ないだろ。ナリは悪くねえって」


「ううん、私のせいだよ。何度も考えるんだ。あの日、私が家出さえしなければ……また、お父さんと会えたのに、って」


 ナリが俯き、横断歩道を渡る。だが途中で振り返り、彼女は零に向け作り笑いを浮かべた。


「でもさ!私があの時家出しなかったら、零や皆には会えなかったし!いいこともあったんだよ?」


 ナリはそう言って「にゃはは」と笑った。


(また、無理して笑ってんな……)


 先を行くナリを、零は心配そうに見つめていた。


(前は、旅行の時だった。旅行で、金が無いから水着とか買えないって言ったら、我儘言ってごめんって……今と同じ、笑顔だった)


 ナリは震えた声で、何かを歌っている。少し音が外れていた。


(今から行くのは、有の高校だ。凛達に今のナリの人間の姿を見せるのは初めてで、もしかしたら死んでるのがバレるかもしれない。本当に、ナリを連れてきて良かったのか……?)


 零が考え込んでいると、ナリが大声を上げた。


「零ー!早くしないと置いてくよー!」


「……ああ、今行く!」


 零が心配しているのを見て、ナリは明るく振る舞っているのだろう。


 零はなるべく普段通りにするようにして、学校へ向かった。



 2人はその後、風ノ宮高校の前までやってきた。


 校門にはバルーンのアーチが飾られ、その下に受付があった。保護者や受験生、外部の者、彼らを迎えに来た内部生で賑わっていた。


「おお!これが風ノ宮高の文化祭かー!」


 零がノリノリで受付に向かった。笑顔でチラシを受け取っている。


(すごく緊張する……でも、ビクビクしてばかりじゃいられない。あの分身達の真実を、そして満咲を、見つけるんだ!)


 ナリが軽くガッツポーズを取った。そして、零と同じテントで、受付を済ませた。


「まず、どこ行きたい?俺は凛のいる3年D組に行きたいんだけどさ」


「うん、私もそこで大丈夫!行こう!」


 校舎の中に入り、階段を登った。3年生の教室は3階にあった。


 階段を上ると、目の前にG組が見えた。そこから左を見ると、G組からA組までが並んでいた。


 どこも賑わっており、人で看板があまり見えなかった。


 G組ではお化け屋敷をしているらしく「ぎゃー!」と悲鳴が度々聞こえた。

「カップル限定!限定スイーツ」を売っていたのがF組のカフェで、隣のE組は体力測定をしていた。


 その隣にあるのが、D組のカフェだった。


「いーらっしゃいませー!あなた好みのメイドさんに会える、3年D組メイド喫茶!ぜひお立ち寄りくださーい!」


「……メイド喫茶?」


 ナリと零の声が重なった。アンティーク調のメイド服を来た女の子が、プラカードを持って客引きをしていた。


「今ならなんと!ご指名NO.1のリンちゃんとお話出来ますよー!NO.2のアイちゃんも、皆さんのことをお待ちしておりまーす!NO.3のマコちゃんは、なんと先程のミス風ノ宮に選ばれたあの子です!ぜひお立ち寄りくださーい!」


 彼女の持つプラカードには、ポップ調で「3Dメイド喫茶!!」と書かれていた。もう片方の手には、メニューが書かれた紙があった。


「いかがですかー!NO.2のアイちゃん、取られちゃいますよー!ふふ、いかがですかー!」


 そのアイちゃんの名札を、客引きの彼女が付けていた。


 ナリはその顔を知っていた。福島愛だ。


「あ……愛!?久しぶり!」


「あ!ナリちゃん!久しぶり!」


 ナリが近寄って声をかけると、愛はナリを見てニッコリと笑い、手を振った。

次回は3月29日です。


追記

ごめんなさい、次回を22日にしてました。

それじゃ0秒投稿ですね。大変申し訳ありません。


今回の章「赤き人形達の舞踏会」は、童話『あかいくつ』をモデルにしています。


前回の章「只、狼は優しくありたかった」の幕間ラジオの方は、出来次第投稿します。投稿したらこちらでお知らせします。いや内容は決めたんですけどやる気が(以下略)

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