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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
赤き人形達の舞踏会
111/159

運命の曲がり道

 これは、ブランキャシアでのこと。


 女王・アストリアスが失踪してから数日が経過した。


 その間誰も女王の痕跡を見つけることは出来ず、冒険者たちはこぞって女王探索に乗り出していた。


「へえ、3つも……」


 そんな中、アルケミスとアッシュは、王立図書館で調べ物をしていた。


「3つも?アルケミス、何見てんだ?」


 アッシュがアルケミスの読んでいる本を覗いた。だがアルケミスはアッシュに気付いてないようで、また黙々と本を読み始めた。


「おーい、アルケミスー?」


 肩を叩いて、初めてアルケミスがアッシュに気付いた。


「ん?ああ、アッシュか」


「アッシュか、じゃねえって。クリスもメルヴィナも買い出し行ってんだから、精霊人で声かけるの俺しかいねえだろ」


「ごめん、没頭してて。どうかした?」


「いや、「3つも」なんて言うから、何かと思って」


「……そんなこと言った?」


「言ってましたが」


 アッシュの言葉を聞き、アルケミスがぱちくりとまばたきした。どうも記憶にないらしい。


「……いや、それはいいよ。んで?3つって、何がだ?」


 しびれを切らしてアッシュが聞いた。何も気にしていないように、アルケミスが答えた。


「これ。王家に伝わる、禁断の魔法のこと。国家創建の時に使ったトップシークレットで、その代の王は必ず習得しなきゃいけないんだって。それが、3つ」


 アルケミスが文献を見せてきた。古い文献のようで、ところどころ文字がかすれていた。


「へえ……それ、どんな魔法なんだ?」


「さあ……細かいことは書いてないけど、名前だけなら……えーっと……ナントカ、コレ、夢」


「いや、なんだよそれ」


「読めないんだもん。詠唱も特に書いてないし……」


「いやいや、アルケミスが読めない魔法なんてないだろ」


「今初めて出会ったよ。うーん……古い字なのは分かるんだけど、読み方がさっぱり分からない。アッシュなら分かる?」


「いや、さあ……」


 2人で首を傾げた。慮生だなんて聞いたことがなかった。人が少なくなり、日が傾いても、2人は閲覧室で首を傾げていた。



 一方その頃。


「いやー、ナリ!手伝わせて悪いな!」


「ううん、これも仕事だし!」


 ダンバーとナリは、2人で馬車に荷物を積み込んでいた。


 ケルベロスアイは******討伐の為、イゲタ洞窟に向かう準備を進めていた。フィーネとブレインは先に酒場に向かい、情報を集めていた。


「食料に、水に、砥石……ポーションと、あと何がいるかな?」


「太いロープだな!これがあれば、少し道に迷った時でも問題ない!あとは松明だな!」


「ロープと松明かー……松明足りなさそうだし、買ってくるよ!」


「おう、頼むぜ!」


 ダンバーが笑って財布をナリに投げ渡した。ナリが小走りで雑貨屋の方に向かった、その時。


「《運命変転》ッ!」


 鋭い、冷静な声がナリの耳に届いた。聞き覚えのある声だ、なんて言っていられない。なにせ、先程会話した人物の声なのだから。


 ナリが気付いた時には、盾を構えたダンバーが目の前で矢を弾き返していた。珍しく慌てた顔で、冷や汗が流れていた。矢はちょうどナリの心臓のところに向かって飛んできていた。


「ダンバー!?今のは……」


「ナリ、警戒を強めろ!」


 有無を言わさない雰囲気だ。周りを見ると、数十人の人々がナリとダンバーを取り囲んでいた。全員手練のようで、様々な武器を構えていた。


「この人達は……」


「さあな。ただ、いきなり攻撃して殺そうとしてくるなんて、よっぽど常識知らずらしいな!お前ら何者だ!?」


 ダンバーが怒った口調で叫んだ。だが彼らは何も答えなかった。


「おい、聞いてんのかお前ら!矢を放ったのはどこのどいつだぁ!?あん!?」


 やはり誰も答えない。皆うつろな目をして、ダンバーの方を見つめている。


「なんだよこいつら……話聞いてんのか?」


「なんだか、聞いてなさそうだよね……ねえ!ちょっと、何か私たちに御用で――」


「意志は決定された」


 突然、彼らのうちの一人が話し始めた。クロスボウを手にしたその男は、矢を携え、構えた。気持ちのこもっていない、機械のような声だった。


「イゲタ洞窟に向かう冒険者は、全て排除せよ」


 何かを読み上げるように、男が言った。他の者達も、ぶつくさと「排除せよ」と唱えている。


「はあ!?なんだよそれ!意志!?お前ら、誰かの差し金か!?******か!?」


 ダンバーが聞くが、誰も答えない。「排除せよ」の一点張りだ。


「違うよ、前評判だと**は仲間がいないはず……意志って、もしかして、ウィル=フレンドシップ様?」


「意志と友情の塔の主だからってか!?そうするとこいつら、下僕どもか!?」


 その言葉にすら誰も反応しない。じりじりとダンバーとナリを囲み、追い詰めていく。


「そうじゃないかな……見たのは初めてだけど……」


「俺もだよ!建国記念日にですら主人についていかずに引きこもってる奴らが、なんでこんな町の中心部に……!」


「そもそも、あそこって試練、受けられたの?塔の扉を開けたらすぐ追い返されるって、聞いたけど……」


「そのはずだ!だから、何かしないと試練を受けられないはずだが……こいつら、全員その「何か」をしたって言うのか!?そんな風に見えねえけど……!」


「そこまでして、何を求めて試練を受けたのかな……」


「ナリ!考えてるところ悪いが、もう時間切れだ!」


 ダンバーが声を荒げた。実際、もうすでに1メートルくらいの近さに彼らが迫ってきていた。


「ナリ!俺の後ろ、離れるなよ!」


「え!?ど、どうするつもり!?」


「一か八か……《絶対命中(ラッキーヒット)》!」


 ダンバーが、盾のラインに沿って剣を投げた。その剣は先程のクロスボウの男に命中し、彼の右手に剣が突き刺さった。


 その剣に向かって、ダンバーが全力で走り始めた。ナリも後を追う。剣を回収しつつ、ダンバーとナリは包囲網を突破した。


「排除せよ軍団、追ってきてるか!?」


「来てる!走っては来ないけど……分散して追い詰めるみたい!」


 後ろを見ると、彼らは「排除せよ」と口を動かしながら、2人に迫ってきていた。

 何人かが脇道に逸れたのが見えた。どうも挟撃するらしい。


「よし!このままフィーネとブレインの所まで走るぞ!4人になって体制を整える!」


「了解!でも、なんでウィル=フレンドシップ様の下僕が……!?」


「分かんねえ!仮にウィル=フレンドシップ様だとして、なんで俺達を殺そうとするんだ!?依頼を止めたいなら受付嬢通じて止めればいいじゃねえか!なんで三賢者ともあろう方が……!」


「**討伐がいけないのかな?それとも、何か別の理由が――」


 ナリがそこまで言いかけた、その時。


 ドンと、地面が揺れた。


 いや、揺れてはいない。揺れたような気がした。


 地響きのような音がして、視界が揺れた。


「……地震?ねえ、ダンバー……」


 ナリが立ち止まり、ダンバーを見た。


 だが、ダンバーどころか、誰もいない。

 往来の激しい広場のはずだが、誰もいない。

 何も音がしない。

 舞い落ちる木の葉さえ、フリーズしたように止まっていた。


「……ダンバー?」


 声が響く。誰もいない。

 ナリが石畳を踏む音も、何かに吸われて消えてしまった。


「え?な、何これ……ダンバー!皆!どこ行っちゃったの!?」


 膝から下に力が入らなかった。

 座り込んでも、立ち上がれない。先程まで感じられなかった頭痛が、急に酷くなってきた。


「ダンバー!フィーネ!ブレイン!クリス!メル!アルケミス!アッシュ!」


 力の限り叫ぶ。だが、誰も聞いていない。


「皆!ねえ、皆!どこ行っちゃったの……ねえ!」


 涙がとめどなく溢れてくる。体が震えて、声がうまく出せなくなる。だがそれでも、ナリは叫んだ。


「皆!いるなら返事して!急にどこ行っちゃったの!?ねえ、誰か!」


 叫ぶ力が底を尽きたのか、それとも何か別の理由なのか。

 

 ナリは気が付く間もなく、気を失った。


 そして、次に目が覚めた時には、体が猫になってしまっていた。



 時間は飛び、現在。


「……にゃっ!?」

 

 ナリはハッと目を覚ました。辺りを見回してみると、普段いる場所よりも高い場所にいた。太陽が直接照りつけ、黒い毛が光を吸収して暑い。


「こ、ここは……屋根の上?」


 どうも月島家の上らしい。零が育てていた向日葵のプランターが遠くに見える。向日葵はもう9月の太陽の力を受け取れるほど、元気ではなかった。


 どうも状況から察するに、ナリは《異形》で猫の姿になり、寝ていたようだった。


「えーっと、最後は……食器片付けてたんだ。にゃら、「夢遊病」かにゃ……」


「夢遊病」は2日に一度に6時間ほど発生するようになった。慣れてはきたが、まだ驚く部分も多い。


(そういえば……食器片付けてた時に思い出したけど、ブランキャシアでの思い出の中で、イゲタ洞窟に行こうとしてたよね。あれって……鬼宿しのベル討伐だよね?)


 心の中で尋ねる。


 鬼宿しのベル。

 オニヤドシノベル。

 なんだか言い慣れない言葉になってしまった。


(鬼宿しのベル……皆に聞いても、覚えてないって言ってた。思い出の中でも、「鬼宿しのベル」って単語の部分だけ、皆の声があまり聞こえなかったし……)


 顔も声も、思い出そうにも細かく思い出せない。


 異空間で戦い、大切なことを話した気もするが……そのことを覚えているのはナリだけだ。


(もし、彼が私の想像の中だけの存在だとしたら……?)


 仮にそうだとしたら、周りの態度にも納得がいく。

 だが、自分の経験した過去を疑う訳にもいかなかった。


「自分**頼るもんが***んだ。誰も自分の**が***って**してくんねぇんだよ。周りの奴も、誰も……頼れるもんは**だけ。その時、***どうするんだぁ?」


 大切だったはずの言葉が、おぼろげになってゆく。


 ナリは零に声をかけられるまで、その言葉を思い出そうとしていた。

お久しぶりです!朝那月貴です。

やっと受験から解放されました。


というわけで、今週から毎週金曜日22時に連載再開します!

次回は3月22日です。


前回のクイズの答えは【①朝日→千里→ナリ】でした。

死んだのは同じ1年間なのに、ブランキャシアに来た順は年単位で異なります。なぜなのかは、これからをお楽しみに。

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