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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
只、狼は優しくありたかった
102/159

「夢遊病」

 朝日に武器を作って貰ってから、3日が経過した。


 夏も終わりかけ、秋の兆しが現れ始めた。道端にはコスモスが咲き、雑貨店にはハロウィンのグッズが店頭に並び始めた。気温も段々と下がり始め、半袖では少し肌寒く感じるようになった。


 そんな、秋の始めの頃。


「――にゃっ!?」


 ナリは、ベンチの上で目が覚めた。


(え!?こ、ここは……ここはどこで、私は誰……いや、私はナリだ。元々山門有で、死んじゃって、そして転生してソルンボルにいたら帰ってきて……うん、大丈夫だ)


 落ち着いて辺りを見回した。周りには知り合いは誰もいない。隣のベンチでおじいさんが寝ているだけだ。

 別の方向を見ると、雑貨店のハロウィングッズに小さな子供が群がっていた。輝かしい目で、仮装の衣装を見比べている。


(ここは……商店街?あれ?私商店街なんかにいたっけ……いや、確か零に追い出されたんだよね。うるさいって。そこまでは覚えてる。えっと、それは……)


 ナリは必死に、自分が何故ここにいるのかを思い出そうとした。それは、まだ正午のことだった。



「《有七種技(ナリセブン)》が1つ目……《有象無象》!」


 獣人族となったナリは家のリビングで、自分の技を練習していた。


 床に拳を叩きつけ、その勢いに乗って飛び上がった。そのまま右足でバランスを取りながら、左足で蹴り、そのまま回転して右手を前に突き出した。ソファが蹴られて少し動かされていた。


「《有七種技(ナリセブン)》が2つ目……《有為転変》!」


 着地してすぐに、ナリは虚空に向かって拳を突き出した。そのまま回転蹴りを2回、空中に放った。近くにあった机が、足が当たった衝撃で音が鳴った。


「……なあ、ナリ」


 零が自分の部屋から様子を見に来た。だがナリはそれも聞こえないようで、次の技を繰り出そうとしていた。


「《有七種技(ナリセブン)》が3つ目!朝有紅顔!」


 力を貯め、拳を前に繰り出す。ナリの汗が、獣人族の姿となって生えた尻尾と耳に触れた。だがナリはそれすら気にならないようで、また次の技を繰り出そうとしていた。


「おい、ナリ」


「はあ……はあ……《有七種技(ナリセブン)》が4つ目!《子虚烏有》!」


「ナリ!!」


 零が大声を上げた。ナリはビックリして、その場で動きを止めた。


「れ、零!びっくりしたにゃあ、どうしたの?」


「どうしたも何も……お前、この惨状を見てみろよ」


 零に言われ、周りを見回した。

 綺麗に整理されていたリビングは、その美しさを失っていた。ソファは蹴られて斜めになり、机はまた別の方向に斜めになっていた。机の上にあったテレビのリモコンやゲームのコントローラーは机から落ち、零が買っていたスナック菓子は床に落ちて潰れてしまっていた。


「にゃ……ご、ごめんにゃ!零のお菓子、潰しちゃって……」


「いや、それはいいよ。また買っとくし。それよりだな……」


「にゃ?」


 零の手がわなわなと震えているのが分かった。零は目から火が出る勢いで声を荒らげた。


「暴れ過ぎだ!なんでうちの中で技練習してんだよ!もっと暴れても大丈夫な場所行けよ!千里の家とか!」


「ええ!?だ、だってここしかないし……マンションとかアパートに住んでる人達には狭いからって言われたし、亥李は住宅街に住んでるから人目に付くし、前に千里の家の前の公園でやったら千里にうるさいって怒られたし……ここしかないんだにゃ!」


「事情は分かったけどうるせえよ!俺だって課題やってんの!他の場所行けや!」


「わ、分かったにゃ……でもどこに行ったらいいのかにゃあ……」


「千里んちの前の公園で静かにやりゃいいだろ!はあ…技名とか叫ばなければ大丈夫だと思うから、行ってこい」


「うーん……まあ、そうするかにゃー……」


 ナリは《異形》し猫の姿になると、とぼとぼと歩きながら玄関に向かった。零が先回りして、扉を開けてくれた。


「にゃあ……あんまり怒られにゃいから、零がいにゃい時とかにやってたんだけどにゃあ……」


「頼む、近所迷惑だからやめてくれ」


「うーん……しょうがにゃいか。行ってきまーす……」


「行ってらっしゃい」


 そうして零と別れ、家を出た。千里の家の方向に行くには、右に曲がればいいはずだった。


 だが、その時。それまで聞こえていた他愛もない話し声やヒグラシの鳴き声が、急にプツンと消えてしまった。


(これは……まさか!)


 ナリが咄嗟に身構えた。だが音が元に戻ることはなく、ナリの視界はゆっくりと黒に染まっていった。


(またこれだ……零!零!)


 心の中で必死に零を呼んだ。だがその声が届くこともなく、そのままナリは、意識を手放した。



(そうだ……あれが来たんだ。なんの脈絡もなく、突然意識が飛ぶ……千里が「夢遊病」って言ってたやつ)


 段々と冷静になり、ナリは今日のことを思い出した。もう太陽が西の地平線へと沈もうとしていた。


(今……夜の6時くらい?なら、6時間意識が無かったのか……今回は長かったな。商店街って、千里の家と逆方向に来てる……)


 立ち上がって伸びをした。ベンチから降り、月島家の方へと足を進めた。


(最近、「夢遊病」が多くなってる……前は5日に1回とかだったのに、今は3日に1回。しかも段々意識が無くなる時間も長くなってて……皆で何回も話し合ったのに、なぜなのかも、どうしたら治るのかも、結局分からなかった)


 ナリの近くを小さな男の子が通り過ぎて行った。長袖のセーターを来ており、ジャック・オ・ランタンのキャンディを手に持っていた。


(もうハロウィンの季節なんだ……最近そんなのも分からなくなってきちゃった。意識が無くなる時間が多いからかな……多分、あれ以来だ。長くなったのは……)


 ナリは、10日前のことを思い出していた。


「さようなら、ナリ」


 参華を救う為、時の回廊に行った時のこと。ナリの元同級生である満咲は、そう言って妖艶な笑みを浮かべた。その瞬間、まるでそうなる運命だったかのように、ナリは「夢遊病」で意識を失った。


(満咲に会ったって、皆に話しても信じて貰えなかったけど……あれから回数とか時間とかが増えた気がする。満咲が何かしら関わってるのは間違いない。未来予知してくるし、満咲の家にいつ行っても居なかったし……怪しすぎる)


 ナリはこの10日間、何回か満咲の家を訪ねた。だが「満咲様はいない」という使用人の返事が帰ってくるだけで、手がかりは得られなかった。


(これから、もっとこれが酷くなるのかな……少なくとも9月中には原因を解明しないと、もっと大変なことになりそう。意識が無い時間の方が長くなるとか……そうなると、いよいよまずいことになる。せめて満咲にはもう一度会ってみたい。何か知ってる気がする)


 見慣れた景色に戻ってきた。月島家のプランターに咲いている向日葵には、種が取られた後があった。


(そうだ……零も「夢遊病」になってたはずだ。大丈夫かな)


 ナリは小走りに家に帰っていった。ナリの視界に、隣の家の表札が入った。


(そういえば……お隣さん、表札出したんだ。引っ越してきたばっかりだし、まだご挨拶とか来ないのかな?)


 月島家のプランターの陰に隠れ、誰も周りにいないことを確認し《異形》を唱えた。人間の姿になると、じっくりと隣の家の表札を見た。


「漢字の十……それだけ?」


 業者が何か間違えたのだろうか。石造りの新しい表札に、漢字の十だけが彫られていた。


「……いやいや。(じゅう)さん?そんな苗字ないよ、多分。うーん……でもそれ以外に読み方なんて……」


 ナリが隣の家の玄関先で首を傾げていると、月島家から人が出てきた。零だった。零はナリを見ると、慌てた様子で近付いてきた。


「ナリ!「夢遊病」の後居なかったから探してたんだよ。なんでここいるんだ?ここで起きたのか?」


 零が心の底から安心しているのが、ナリにも伝わってきた。


「ううん、起きたら猫の姿で商店街にいた。それでここまで帰ってきて……零は?」


「俺は気が付いたらカップラーメン食べてた。勿体ねえから食べちゃったけど、今それで全然腹減ってねえんだよなあ……ナリ、夕飯勝手に食べてくれないか?」


「ええ!?零食べないの!?」


「腹いっぱいになったしよ。それでお前、隣の家の前で何してんだ?」


「んにゃ?ああ、珍しい苗字だなーと思って見てたんだ」


 ナリが目線を表札に移した。


「へえ、どれどれ……」


 零が目線を移した。ナリには零の顔が、みるみる青くなっていくように見えた。


「零?」


 零は唇をぷるぷると震わせ、その表札の字を何度も確かめていた。


「えっと……零、大丈夫?」


 ナリが心配そうに顔を覗き込んだ。零はその顔を見て小さく笑みをこぼし、ふうとため息をついた。


「ああ……大丈夫だ。ちょっと昔の知り合いに似た苗字の人がいて」


「昔って……川峰創の時?」


「そうだ。でもあの人は遠くの方に住んでるはずだし、きっと……」


 誤魔化すように零が笑って言いかけた、その時。


「……うちに何か?」


 ちょうど家の中から女性が出てきた。五十歳を過ぎた位の見た目で、眉間に皺を寄せていた。ナリはその女性を、どこかで見たような気がした。


「あ、すみません。私たち隣の月島なんですけど、どんな人が引っ越してきたかなって話してて」


 ナリが優しげな笑顔を浮かべて説明した。横目で零を見ると、零は口を閉じ、深刻そうな表情で女性を見つめていた。


「そうなんですか。ちょうど良かった、先程お伺いしたのですが、お留守でしたので」


 女性はくるりと振り返り、後ろの方へ「優人、来てちょうだい」と呼びかけた。


「優人……!?」


 零がボソリと呟いた。手が震えていた。


「零?本当に大丈夫?」


 ナリが小声で呟く。零はそれも聞こえていないようだった。

 少ししてから、若い男性が現れた。女性に似た、二十代後半の男だった。手には、カステラが入った有名なブランドの箱が握られていた。


「嘘だ……」


 零の目が、その男に釘付けになった。


「私たち、昨日引っ越してきました(つなし)といいます。私が誠子(せいこ)で、こちらが息子の優人(ゆうと)です。よろしくお願いします。これ、良かったら」


 無愛想な笑顔が、ナリ達に迫った。ナリの頬に冷や汗が流れた。

お久しぶりです。朝那です。

約1年ぶりです。本当は連載をちゃんと再開する予定だったのですが、残念ながら浪人してしまったので、毎週投稿が出来なくなりました。本当にごめんなさい。


なので、今後は毎月28日の夜10時に、月連載をしようと思っています。いや多分大丈夫。月1なら受験ギリギリでも時間取れるはず。

というわけで次回は5月28日です。


しかし皆様この話を忘れていらっしゃるでしょうし、新規の方もいると思いますので、皆様がこの章から見ても分かるよう、毎回クイズを出して終わろうと思います。内容は『にゃんと奇妙な人生か!』に関するクイズです。


ではさっそく問題!


【主人公・ナリは元々風ノ宮高校のJKでした。彼女の本名をひらがなで書くと、次のうちどれ?

①やまかどなり

②やまかどゆう

③やまわきなり

④やまわきゆう】

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