第二十七話 自由と準備は整った?
「ねぇ、いいでしょう? 私感じちゃったのよぉ……あぁ、この人が運命の人なんだって」
「まぁ、直接精神に触れた訳だから、勘違いする気持ちも分かる」
「ちょっとお母さん! いい加減っ! 離れてってばっ!! 病み上がりなんだよ!? あとアナタの運命の人はお父さんでしょ!?」
「あんっもう! 意地悪ねぇエミレアは! 運命の人は何人いてもいいのよ?」
「それ運命って言わないんじゃないかなっ!?」
予想外だミレイナ。エミレアの性格、眠りについていたミレイナの顔、そして女で一つでエミレアを育て上げたと言う苦労人。
それがまさか、こんな娼婦のような性格だったとはな。俺は大好きだが。
「う~ん、こうなったらぁ…………えいっ」
「――――ッ!? う……くっ……お、おい!? まさかお前……!?」
視界に靄が掛かる。精神が乱され、正常な思考を保てない。
ミレイナから放たれたこれは……紛れもなく純粋奇跡。どうやら先ほど喚び醒ました影響で、己の純粋奇跡を認識したようだ。
目の前の女を抱きたい、甘えたい、溺れたい。頭の中がピンク一色、他に何も考えられない。
それに反して体に影響は出ていない。影響を与えられているのは俺の精神だけという事か。
「うふふ……ねぇ、お名前……教えてくれる?」
「……サージェス・コールマン」
「そう……ありがとうサージェスさん。私、貴方に助けられたのよね?」
「……助けたのはエミレアじゃないか? 頑張ったのもエミレアだ」
「もちろんエミレアにも…………あら? 色が消えたわね?」
首を傾げるミレイナを見て、凡その彼女の純粋奇跡を把握した。
正式名称など知らないし、本人がどう呼ぶのかだが、しっくり来る名で呼ぶとするのならば……。
「――――精神誘惑。恐ろしいな、男には抗えねぇ」
「貴方、抗っているように見えるけど……?」
「抗うと言うか……もうミレイナの誘惑は支配したよ。俺に精神勝負を仕掛けようなんざ……年季が違うぜっ?」
「キャっ!?」
ミレイナをベッドに押し倒し覆いかぶさる。
まったく元気なお母さんだ。そんな体で性を貪ろうとするとは……まぁ激しくしなければ大丈夫か? よし。
「そんなに抱いてほしいなら抱いてやるよ。いいんだろ?」
「えぇ、いいわ。きて……」
「ほら、じゃあもっと誘惑して見せろ……」
「……覚悟してね?」
「望むとこ――――」
「――――いいわけねぇだろぉぉぉぉ!!! アナタの娘がここにいますけど!? ガッツリ見てますけど!? お前も娘の前で母親を抱こうとすんなぁぁぁぁ!!!」
……冗談だよ。そんなに怒んなよ……。
――――
――
―
「――――お帰りなさいサージェス様。エミレアさんと……そちらは?」
ミレイナの体調を確認した後、俺達はアイシャが待つ組合までやってきた。
色々あったけど、ミッションコンプリート。エミレアは俺の作る組合の冒険者になってくれると、先ほど約束してくれた。
エミレアが移籍するのなら、シューマンも移籍するだろう。
「初めまして。私、エミレアの母でミレイナと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私はサージェス様の女で、アイシャ・ログレスと申します。この組合の組合長も務める予定です」
「あらあら、サージェスさんの? 流石にモテるのねぇ~。第二夫人の席は空いているのかしら?」
「どうでしょう? 愛人の席なら空いていると思いますが」
「あら手厳しい。でも愛人から正妻を狙うのも面白そうねぇ」
「どうでしょう? あの方は処女厨ですし、年老いた方には厳しいかと」
「言うわね小娘~……うふふ」
「ふふふっ……」
何やらバチバチと火花を散らし始める二人。
仲良くしてもらわなければ困るぞ、これから二人ともにウチの組合職員として働いてもらうんだから。
「なぁエミレア。お前の母ちゃんって……いつもあんななの?」
「いやいやいや! ビックリだよ!? あんなお母さん、見た事ないよ!?」
「……まぁさっきまで寝てたんだ。とりあえず今日は休んでもらって……」
アイシャとミレイナの戦いをエミレアが止めに入ったのを見届けた俺は、次の事に頭を動かしていた。
資金も揃った、組合の準備も、守備隊の申請も、冒険者も集めた。
とりあえずは、守備隊の常駐員か? リヒャルドに聞きに行くか、そろそろ決まっているかもしれないしな。
「――――あのぉ~、サージェス……いますか?」
「ん? おおルルゥ、お帰り」
どこか顔を曇らせたルルゥが戻ってきた。
初めは中の様子を見て顔を曇らせたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
そんなルルゥの後ろから、長身の女性が姿を見せた。私服だから一瞬気づくのが遅れたが、こいつ――――
「――――レイシィじゃん。なんでこんな所にいるんだ?」
そこにいたのはアザレスで出会った金髪美女。アザレス守備隊の部隊長、レイシィ・ミストリアに間違いなかった。
「お久しぶり……でもないですかね?」
「そうだな。お前と再会できるのは数か月後だと思ってたぜ? 俺が恋しくて来ちゃったか?」
「ふふ、来ちゃいました。渡りに船だったので、勢いそのままに」
「どういう意味だ?」
艶然と微笑むレイシィ。いきなりの美女の登場に、この場にいる全ての者の目が集まっていた。
そんな視線などお構いなしのレイシィは、サージェスの目を見つめたまま話を続ける。
「私、貴方の作る冒険者組合の、常駐守備隊員になりましたので。末永く、よろしくお願い申し上げます」
「え? マジで? でもお前、大隊の副隊長になるんじゃ……?」
「あの戦いで、思い知らされましたので。私はまだまだ、大隊を率いる器にないと。なので、昇進を断ってきました」
「もったいねぇ気がするけどなぁ? 本当にいいのかよ? 俺としては助けるけど」
「もう決めた事ですから。あなたの傍にも……いたかったし……」
凛とした態度は崩れ、頬を染めつつモジモジしだしたレイシィを見て、周りがザワっとしたのがハッキリ分かった。
エミレアとルルゥは敵対するような目で、アイシャも珍しく警戒色を浮かべてた。
「あらあら~、面白くなりそうねぇ」
一人だけのほほんとしている奴はいるが。
「「うわ……また増えたよ……」」
「私と似通った体形、若さ、そして胸……危険ですね」
「初めまして、レイシィ・ミストリアと申します。サージェスとの関係は……ご想像にお任せいたします」
――――ピキッ。
空気が、弾けた音がした。
――――
「サージェスさん!? 約束したよね!? 私いつでも捧げる準備できてるから!」
「……捧げる? なんですかそれ? それも聞き捨てならないんですけど」
「捧げる……あぁなるほど。なら私は、一歩リードという事ですね」
「は、はぁ!? それってどういう事かな!?」
「エミレアさん、貴女もなんなのですか? 約束ってなんですか?」
「レイシィさん。当組合の組合長は私ですので、勝手にサージェス様に近づく事は許しません」
「冒険者は組合のものではないですよね? いかに組合長と言えども、そのように強制される謂れは……」
「あなた様はクロウラにおける法律の番人です。組合内での法は私ですので、組合内では私に従って頂きます」
「いやいや、それは間違いですよ。私は貴女に雇われてここに来た訳ではないので」
「ちょ、ちょっとルルゥ!? 離してよ!? 早くしないとあの金髪にサージェスさんが食われる!!」
「だからエミレアさん、約束ってなんですか? 捧げる約束ってどういう意味ですか?」
「あらあら~、ほんと……面白くねりそうねぇ~」
――――
「――――で? これ、どういう状況だよ?」
「まぁよくある、修羅場だな」
「よく……あるのか? 聞いた事ないぞ?」
「そうなのか? 俺は何度も経験済みだけどな」
遅れてやってきたシューマンが、組合内の状況に目を丸くする。
彼女達は未だに言い争いを続けているが、これで役者は揃った。
これで俺は、冒険者になれる! 組合を作るため、色々あったがようやく漕ぎ着けた。
組合拠点の確保、組合登録金、常駐と巡回の守備隊の確保、組合職員の雇用、そして五人の冒険者。
「いよいよだぞシューマン! 俺達の組合、ついに旗揚げだ!!」
「……いや、サージェス? 新規に組合を作る時って、冒険者が五人必要なんだよな?」
「そうだよ、だから?」
「……俺とサージェス、エミレアにルルゥ……」
「……ん?」
「え……?」
あれ? 一人足りなくね?
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