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第二十五話 自由と天使のお礼

今回と次回、短め

 





 エミレアが待っているミレイナの病室に戻った俺は、エミレアから熱い抱擁を受けていた。


 よほど不安だったのだろう。大粒の涙を零す彼女を宥め、落ち着きを取り戻させたのちミレイナに向き合った。


 注入の輝石を使い、ゆっくりとミレイナに失われた純粋奇跡を戻していく。



「――――それが、お母さんの純粋奇跡」


「ああ。可視化している純粋奇跡なんて、中々見る事がないぞ?」


「綺麗だね……でもお母さんが、純粋奇跡を宿しているなんて知らなかったよ」


「知らないで一生を終える者も、普通にいるらしいからな」



 純粋奇跡が戻るにつれて、ミレイナは生気を感じられない人形から、眠りについている人間とまで呼べるほどには顔色が良くなっていた。


 やはりこうして眺めると、かなりの美人である。今は頬がコケて痩せ細ってしまっているが、元気になればエミレアの姉と言われても違和感はないのではないだろうか。



「……サージェスさん、なにニヤニヤしてるのかな?」


「ん~別に。エミレアに似て美人だと思って……あぁ、エミレアがミレイナに似ているのか」


「……もしかして、お母さんにも手を出すつもり? 守備範囲広すぎないかな?」


「俺は顔が良ければそれでいい。年齢とかありま関係ないな」


「うわ~、そこまで言い切られると清々しいね。もう……私で、我慢してよ……」



 いじらしい表情をするエミレア。俯き加減で俺の服の裾を掴む仕草は、非常に可愛らしく男心を擽られる。


 あと一歩でエミレアが手に入る。元より打算的な行動だったのだ、これが終わったら初めてを捧げてもらおうか。


 女性の初めては特別なもの。色々な意味で、初めてを捧げた相手と言うのは記憶に残り続けるのだ。



「エミレアで我慢と言うか……俺はエミレアが欲しいんだよ」


「ぇ……っと、それは……そういう事、かな?」


「そういう事だな。別に断っても構わないぜ? 無理強いはしない」


「む、無理なんてしてないっ! 覚悟もしたし……わ、私は、サージェスさんが……いい」


「なら、お母様に許可を貰わねぇとな。娘さんの初めてを貰いますって……初めてだよな?」


「は、初めてですぅっ!! ていうかそんな許可もらわないでよっ!!」



 元より失敗などするつもりはなかったが、何が何でも成功させなければなくなった。


 だが問題は、もう八割方は戻ったと言うのに、ミレイナに意識も感情も感じられない事だ。



「――――っと、これで全部戻ったはずだけどな」


「お……お母さん? お母さん……? お母さんッ!!」



 エミレアが必死に呼びかけるが、ミレイナは全く反応を見せなかった。顔色もよく呼吸も安定しているが、眠りから目覚める様子がない。


 ミレイナの精神は、欠けている訳でも傷ついている訳でもない。完璧に元に戻したのに目を覚まさない。精神とはそれほどまでに人智を超越した箇所なのだ。


 しかしまるで、この状態は俺が治すために用意されたようだな。神様はよほど、エミレアを俺に依存させたいらしい。



「お母さんッ! 目を開けて!! お母さん!!」


「……エミレア、俺が代わる。母ちゃんが目醒めた時、なんて声を掛けるか考えとけよ?」


「サージェスさん……お願い、お母さんを……助けてッ!!」



 エミレアと場所を代わり、ミレイナの頭に手を置いて目を瞑る。


 以前と変わらず空っぽのミレイナの中身だが、奥深くまで入り込むと確かにあった。


 深く眠りについてしまっていて、自力ではどうしようもなくなったものを――――喚び醒ます!!



 ――――



『――――おい、起きろ眠り姫』


『――――』


『お~い! 目醒めなさ~い!!』


『――――』


『寝坊助さ~ん? パンツ見えてますよ~?』


『――――……』


『随分と派手な色ですね~? 金色! 金色なんて初めて見た!!』


『――――……ぃ』


『え~? なんだって~?』


『――――……てない』


『もっと大きな声で!! ハイッ!!』


『……もって……ない』


『……やっと起きたか眠り姫』


『……だれ……あなた……』


『エミレアが惚れている男かな』


『……えみ……れあ……』


『そう、エミレア。お前の娘だろ? 起きるのを待ってるぞ』


『……えみ……レア……!』


『そうだ。その感情……母性、愛。もっとだ、浮かび上がらせろ』


『エミ……レア……エミレア……!!』


『もっとだ!! もっと大事な者の名を叫べッ!! 後は俺が引っ張り上げてやる!』


『エミレア……! エミレア! エミレアぁぁぁ!!!』


『――――はいお早うさん、やっとお目醒めか?』



 ――――



「……えみれあ」


「えっ……お、お母さん……? お母さんっ!?」


「えみれあ……エミレア……!! ごめんね……ごめんねぇ……!!」


「お母さん!! うわぁぁぁぁぁ――――」



 抱き合い涙を流す親子を見た俺は、そっと部屋を抜けた。


 二人の声が聞こえなくなる所まで歩き、いつもの癖でポケットから煙草の箱に手を付けた。


 あぁ、そう言えば煙草は切れていたんだっけ……そう思ったんだが、なぜか箱の中にではなく、ポケットの中に一本の煙草があった。


 どうやら先ほど、エミレアに抱き着かれた際に忍び込まされたらしい。


 まったく最高の天使様だと、久方ぶりの煙をゆっくりと楽しんだ。


お読み頂き、ありがとうございます

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