表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/92

第二十四話 自由と暴かれた心






「カヒュッ……カヒュッ……カハッ……」


「おいクーヴァッ!! 死んでんじゃねぇぞ!!!」



 溢れ出る血は止まらない。せめて血の流出を防ごうと手で抑え込むも、嘲笑うかのように血は流れ続ける。


 治癒の輝石もない。クーヴァは、助からない。



「ガハッ……――――ン――――ラ――――スト」


「何だって!? おいクーヴァ!!」


「カ……ガァ……――――」



 目を見開いたまま、クーヴァは絶命した。


 最後、何かを言おうとしていたが、恐らく推測した先生を殺した人物の名を言おうとしていたのではないだろうか。


 余計な事を……一歩近づけたかもしれないのに……テメェはッ!!!



「レゾートッ!! なんのつもりだテメェ!!」



 後ろを振り向くと、優しい微笑みを浮かべた金髪翠眼の元同僚である、レゾート・レゾナンスがそこにいた。


 悪びれもしないその表情。強烈な殺気を放っていると言うのに、まるで良い事をした事を褒めて欲しそうな声色で問いに答えた。



「優しい先輩はクーヴァさんを生かそうとしていましたよね? ダメですよ、キッチリ始末しないと」


「お前……聞こえていたよな? 聞こえていてワザと!!」


「……クーヴァさんを逃がせば、間違いなく強硬派が動き出します。保守派を除いた全戦力が……あの序列一位でさえも」


「黙れッ!! んな事は聞いてねぇ!! 聞こえてて殺しやがったな!?」



 俺と会話をしていて、俺の殺気が消えた事には気づいていたはず。


 それなのにコイツはクーヴァを殺した。会話を続けさせる訳にはいかないかとでも言うかのように。



 ――――



「先輩はなぜ、ワザと傷を負うのですか?」


「なんの事だッ!?」


「僕は、先輩のアザレスでの戦いを見ていました」


「だからッ! 何だってんだ!?」


「先輩に渡した王刃はランク:王。先輩であれば、万の刃を展開させる事も出来たはず。それなのに展開した王刃は数十から数百。目立ちたくないという事ですか?」


「お前に関係ない! 俺はッ……」


「それで弱者と同じ土俵に立っているつもりですか? 圧倒的すぎる強者は、弱者の中では生きていけませんからね。大変ですね? 弱者のふりをするのは」


「……弱者のふりだと?」


「貴方は怖れているんですよ。孤独が怖いのでしょう? 失うのが怖いのでしょう?」


「怖い……? 俺が、何を怖れているって?」


「圧倒的存在は畏怖され孤立する。先輩はそれを避けているのでしょう? 嘘を吐いて、欺いて、自分を騙している」


「俺は一人でやって来た、いまさら何を恐れるっていうんだ」


「孤独が嫌だから力を隠す、失いたくないから近づかない。孤立したくないから周りに合わせる、失った時に悲しみたくないから深入りしない」


「……てめぇ」


「貴方はいつも引いている。それなのに一人にならないように行動している。近づき過ぎた者を全力で守ろうとしている。約束……なんて都合のいい理由で」


「……うるせぇ」


「失いたくないから、奪われたくないから――――相手を自分に依存させる。だから先輩の周りには女性が多い、恋慕は依存に仕上げやすいから」


「…………」


「独占欲以上の歪んだ欲。いつしか欲は恐怖に変わり、先輩の心の奥深くに根付いてしまった」


「……それ以上、口を開くな」


「一ついい方法があります。失う事もなく、奪われる事もない」


「黙れ……」


「簡単な事ですよ。貴方と並び立てるほどの強者と共にいればいい。僕なら先輩の隣にずっといられます。いつまでもアリスレア(あんな女)の影を追いかけてないで――――」

「だまれ――――黙れェェェェェェ!!!!」



 ――――



 頭に血が上ってしまった俺は、全力でレゾートを殴り飛ばしてしまう。


 いつくかの純粋奇跡の器を巻き込んで、盛大な音を上げながら吹き飛ぶレゾート。


 久方ぶりの全力に、嫌な汗が背中を伝った。それだけではなく、以前アイシャに捨てられたと勘違いした時と同様に、嫌な感覚が全身を駆け巡る。


 ……殺した? 俺がレゾートを? 俺はレゾートを、失う……?



「レ、レゾート……? お、おい……大丈夫――――」

「――――僕はいなくなりません、貴方と共にいられます。でもカナリ痛かったので、慰めて下さい」



 頭から血を流してしまってはいるが、立ち上がりシッカリとした足取りで向かって来るレゾート。


 一瞬にして心の陰りが消えてなくなり冷静になる。どうやらレゾートも、すでに線の内側に入ってしまっているようだ。



「な、慰めるってなんだよ? 治癒の輝石は持ってねぇ」


「頭を撫でて下さい。昔よくしてくれたように」


「は、はぁ? 嫌だよ、お前は男なんだから」


「…………男だから……ですか」


「そ、そうだよ。ガキじゃねぇんだ、昔みたいに甘やかすなんて事はしない」


「……僕は男ですが、貴方に依存していますよ? それでも……ダメなのですか?」



 な、なぜコイツは上目遣いで俺の顔を覗き込む!? 下手に中性的な容姿のせいか、見方を変えればボーイッシュな美人に見えない事も……。


 いやいや!! レゾートは男だぞ!? 思い出せ! 昔、一緒に風呂に入った時の事を!!


 俺の馬サイズを超えた、マンモスサイズだった事を!! ちきしょー、先輩を凌駕しやがって。



「な、ならん! 俺の手は女の頭を撫でるためにあるのだ!!」


「……先輩のばか。もういいです」


「気持ち悪い拗ね方をするな! お前は俺の後輩か!? ちょっと可愛いと思って……あ、いや」



 くそ、調子が狂う。昔から俺の事を見てきたレゾートの言っている事は、正しいのかもしれない。


 依存してくれれば、扱いが楽だという言い訳をしてきたが……俺は怖れているから、依存してくれる人間だけを周りに置いているのか。



「それより先輩。少し甘すぎではないですか? ここに来るまで、息のあった聖典騎士が数人いましたよ?」


「……放っておいても死ぬだろ」


「もしこの凶行を行ったのが先輩だと知られたら、どうなるか分かるでしょう?」


「そりゃ……そうだが。向かって来るなら返り討ちにするだけだ」



 その言葉に呆れた顔をするレゾート。深い考えもない、ただの自信過剰男に現実を教えるかのように、静かに語りだす。



「今は保守派の指揮官(ディレクト)が抑えていますが、実行官(エクス)管理官(アドミン)を殺されたとあっては、流石に強硬派を黙らせられません」


管理官(アドミン)を殺したのはお前だろ……あ、イヨリスは俺か」


「先輩は最強だとは思いますが、人間でしょう? 食事を取る暇も、寝る暇も与えられない……自由を失いますよ?」


「自由を失う……か」



 レゾートは何も大袈裟になど言っていない。それほど簡単に退けられる組織であれば、ここまで世界を牛耳る事など出来はしないだろう。


 南方諸国を除いたすべての国に多大な影響力を持つ組織が、神の軌跡だ。


 その力は大国の力を凌駕する。その戦力の中枢が、俺一人に差し向けられたとしたら抗うのは容易ではない。


 それに、序列一位にぶつかるのだけはゴメンだ。



「……分かったよ。なら、後始末は任せていいか?」


「ご褒美を頂けるのなら、喜んで」


「褒美っても、俺は何も持っていないぞ?」


「そうですね……では先輩、今度一緒に温泉にでも――――」

「――――じゃあなレゾート! 頼んだぜ!!」



 ミレイナの純粋奇跡を手に取り、即座に離脱。


 身の毛がよだった。温泉だと!? 温泉イベントを男のレゾートと行えと言うのか!?


 恐ろしい。一体アイツはナニを考えているんだ。


お読み頂き、ありがとうございます


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ