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第七話 自由とルルゥの冒険

 





 シューマンからエミレアの話を聞いた次の日、俺は変わらず自由な片翼に足を運んでいた。


 俺の組合に加入してくれる冒険者の確保、それが最優先事項だ。とりあえずは最優先で組合を設立して、少しでも金を稼がなくてはならない。


 これはエミレアのためではなく、一か月の間に組合を設立しないとせっかく見つけた物件から追い出されてしまうからだ。


 エミレアの事は、最優先ではないが並行して行っていこうと思う。何か機会があれば動こうとは思っていたのだが。


 どうやらエミレアは、俺の事を避けているようだ。



「なぁ~んか、女に避けられるってのは傷つくな」


「……え? サージェス、誰かに避けられているのですか?」



 昨日と同じように行動を共にしてくれていたルルゥが、不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。


 俺は自由な片翼の冒険者ではないので、あまり一人で動くのは良くないのでは? といったルルゥの気遣いから一緒にいてもらっているが、申し訳なくて若干心が痛い。



「いや、別に……そういやルルゥ、黄色(おうしょく)冒険者おめでとう」


「あっ、ありがとうございます! でもまぁ、すぐに青に降色しますけどね」



 あははっと笑いながら、ルルゥは笑顔を見せてくれた。


 本当に可愛く笑う子だ。男心を(くすぐ)るあどけない笑顔においては、ルルゥ以上に似合っている女性を見た事がない。


 組合移籍の話は心を決めてくれたようだ。その決心を無駄にしないためにも、何が何でも組合を作らなければ。



「ルルゥ、今の内に緑色の依頼を受けて来いよ? 俺も手伝うから」


「ほ、本当ですか!? で、でも……冒険者の勧誘はいいのですか?」


「いいのいいの、どうせ誰も来ねぇし。二人で悪魔狩りデートでもしようぜ」


「そ、それはデートでは……ない気がしますけど」



 とか言いつつも、嬉しそうに微笑んだルルゥと共に、依頼の掲示板へと向かう。


 今のルルゥが受けられる最高色の緑依頼。その中でも難しく報酬がいい依頼を受けて俺達は街を出た。


 エミレアに避けられている現状、俺が直接彼女に接触しても、何も話してくれないだろう。ストーカーよろしく、後を付いて回ろうかとも考えたが非効率だ。


 最も効率がいいのは、シューマンに情報収集をしてもらう事。


 まぁそれには数日かかると思うので、俺は何も考えずにルルゥと親交を深めておこうと思う。



 ――――

 ――

 ―



「――――な、な、ななな……なんですかアレぇぇぇぇぇ!!!」


「あれは煉獄狼だな。吐く息は皮膚を爛れさせ目を潰し、爪に抉られれば傷口から徐々に体が溶け出す。纏う煉獄の衣は近づく者を――――」

「――――ど、どどどうでもいいです!! あんなまじぃのまじぃですよ!!」


「まぁ、上位悪魔だからな。ほら、煉獄狼の抜け毛が依頼の品だろ? あそこに落ちてんぞ」


「落ちてますけど近づいたらまじぃですよ!? 溶けます!? わたし溶ける自信があります!?」


「変な自信を持つなよ……ったく、仕方ねぇな――――」



 ――――

 ――

 ―



「――――な、な、ななな……なんですかアレぇぇぇぇぇ!!!」


「あれは壊死鳥だな。放つ腐臭は細胞を壊死させ、地獄の鳴き声は脳を麻痺させる。羽ばたきで生まれる死の風は近づく者を――――」

「――――ど、どどどうでもいいです!! あんなこえぇのこえぇですよ!!」


「まぁ、最上位悪魔だからな。ほら、壊死鳥の涙が依頼の品だろ? 泣かせて来いよ」


「あんなこえぇの私が泣かされます!? いいえもう泣いてます!? ルルゥの涙で我慢くださいませ!?」


「我慢できねぇよ……ったく、仕方ねぇな――――」



 ――――

 ――

 ―



「――――な、な、ななな……なんですかアレぇぇぇぇぇ!!!」


「あれは天竜だな。その目から放たれる眼圧は心身を壊し、強靭な脚に踏み抜かれた大地は割れ、その咆哮は天を裂く。奴に目を付けられたらどう足掻いても――――」

「――――ど、どどどうでもいいです!! あんなヤベェのヤベェですよ!!」


「まぁ、天魔だからな。ほら……うん、流石にアレはヤベェわ。なんでこれが緑依頼なんだ?」


「スケッチだからじゃないです!? スケッチだけならなんとかなるとか思ったとかじゃないとかないですか!?」


「なに言ってんのか分かんねぇよ……ったく、仕方ねぇな――――」



 ――――

 ――

 ―



「――――緑色(りょくしょく)冒険者おめでとう、ルルゥ」


「……あれが緑色なら、私はもう色を濃く出来ません……」



 心折れた冒険者が一人、俺の組合のテーブルに突っ伏していた。


 そんな冒険者を労う我が組合の受付嬢、アイシャ・ログレス。ゆっくりと近づき、温かい飲み物を差し出した。



「どうぞ、ルルゥさん。お疲れ様でした」


「ありがとうございます……アイシャさん」



 冒険者とは、経験と勇気によって、己に中にある朧げな色の濃度を上げていく。


 白色という何色にも染まれる色は、如何なる色にも染まる事のない黒色となっていく。


 ブレる事のない色は自信となり、自信は人を高みへと押し上げ、やがて天という成功を掴む。


 頑張れ冒険者、謳歌せよ若人。君達の未来は無限大だ、自由に心のキャンパスに色を付けていってくれ。


 すげぇな俺、まるで先輩冒険者だ。



「しかし聞くところによると、不相応依頼ですね。依頼の色を決める職員が、間違った可能性があります」


「そ、そうなのですか!? じゃあ緑色のルルゥは、天魔と戦う事はないんですね!?」


「天魔なんて、黒色冒険者にしか対処できません。そもそも天魔関連の依頼があった事が驚きです」



 組合の事情に詳しいアイシャの言葉に、どこか安心した様子のルルゥ。やっと落ち着いたのか、目の前に置かれた飲み物に手を出した。


 ――――次の日、自由な片翼の職員にルルゥは頭を下げられることになる。新人職員が難度を誤って掲示してしまった事、本来は赤依頼や金依頼の難度になるという事。


 望めば赤色(せきしょく)冒険者にしてくれるとの話も出たが、実力に見合っていないルルゥはそれを断る事になる――――のは明日のお話。



「この数日間、疲れました……もうしばらく冒険はいいです……」


「数日で黄色から緑色に昇色できる人は少ないですよ? 胸を張って良いと思います」


「そうそう! 胸を張れ! ルルゥは成長したと思うぞ? その胸は成長してないみた……」



 二人のキツイ視線を感じ、慌てて俺は閉口した。


 マズい事を言ってしまったと慌てる様子の俺を見て、それが面白かったのかルルゥは爛漫に笑い、アイシャは繊細に微笑んだ。


 そんな和やかに過ぎてゆくある日の夕暮れ、ついにある情報がシューマンから(もたら)された。



 ――――



「――――はぁ……」


「どうしたのですか? ルルゥさん」


「あっ、アイシャさん……その、ちょっと気になる事がありまして」


「気になる事ですか? 私でよければ、お話をお聞きしますが」


「その……やっぱりサージェスって、大きい方が好きなのかな~って」


「大きい方……ですか? 確かにあの方は、小さい葛籠(つづら)と大きい葛籠があったら、大きい方を選ぶ方ですね」


「……分かっていて揶揄(からか)ってますよね? む、胸の話ですよ」


「聞きたいですか? 私は聞いた事があります――――ベッドの上で」


「急にマウント取らないで下さいよ!? まだ負けていませんからね! それで!? どっちだって言っていたんですか!?」


「大きさは特には。形が綺麗で感度が良い、ドス黒くなければ……とは言っていました」


「形……感度……色……」


「ああでも、爆乳や奇乳はちょっと……とは言っていましたね」


「キニュウ……? なんですかそれ?」


「さぁ、なんでしょうね? つまる所、あの方は胸だけで判断するのではなく、体全体のバランスを見ているのだと思います」


「な、なるほど。体は小さいのに巨乳は……って感じですかね?」


「ええ、恐らく。ちなみに私は、素晴らしいと褒めて頂きました」


「ちなみに報告しないで下さい!! でも、なんか……サージェスって変態ですね」


「ええ、変態ですね」



「…………あのさ、せめて本人がいない所で話してくんない?」


お読み頂き、ありがとうございます


明日は分からんです、すみません

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