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第五話 自由と組合員募集

 





「――――という訳なんだけど、どうだ?」



 組合設立の話もそこそこに、俺は本来の目的であるシューマン達のヘッドハンティングを開始していた。


 言われる事は感づいていたであろうシューマン達に、驚きや動揺は見られない。


 どうしようかな……といった辺りの感情で、三者三様に頭を捻っている。


 そんな中、シューマンが口火を切った。



「まずさ、他の組合に移籍すると、冒険色が一つ落ちるんだよ」


「そうなのか? そりゃ知らなかったな」


「だから移籍ってのは中々ないんだ。余程メリットでもない限りな」



 メリットと言う言葉に、以前自由な片翼の組合長だったロードランが行っていた、冒険者の売買の話を思い出した。


 いくらベテランの冒険者でも、金の前には首を縦に振るのだと思った事がある。


 そもそも冒険者になる理由は様々だろう。金を稼ぐといった動機で動いている奴なんて五万といるだろうし、おかしいとは思わない。


 問題は、俺は彼らに金というメリットは提示できないという事だ。



「私は……いいですよ。サージェスの組合に渡っても」


「お? マジかよ? でもルルゥって確か……」


「姉を追って冒険者になりましたが、組合まで一緒であろうとは思いません。自由な片翼を選んだのも、姉がいるから……それだけですので」



 すぐ隣の、それどころかゼロ距離のルルゥが、僅かに頬を朱色に染めながらも移籍を了承してくれた。


 現在のルルゥの冒険色は青。移籍すると一つ下がり、最下位色の白となってしまう。


 青も白も変わらないので、と笑いながら言うルルゥ。先日受けた試験が上手くいけば、黄色に昇色するはずなので、それから移籍すれば青に降色となる。


 再試験料金を払ってくれるなら移籍しますと、冗談半分に言うルルゥだったが、そのくらいならお安い御用だ。


 決してお安くはないが、試験料金なんて持ってない。



「シューマンとエミレアは……どうだ?」


「俺は行ってもいい! ……と言いたい所だが、俺はエミレアとパーティーを組んでるし、一人じゃ決められない。それに……」


「それに?」


「いや……今、依頼を受けてんだよ。せめてこれが終わるまでは……なぁ、エミレア?」


「そ、そうだね……」



 どうやら少し簡単に考えすぎていたようだ。何の問題もなく、二つ返事でシューマン達は了承してくれると思っていたのだが。


 色々言ったが、無理やり移籍させるつもりはない。時間的な猶予はあるし、他の奴を見つける事はできるだろう。


 コイツらに声を掛けたのは、俺が一緒にやりたかったというだけ。でもそれは、シューマン達の想いを曲げてまで成し遂げようとは思わない。



「そっか、まぁ考えおいてくれよ? 時間はまだあるんだ」


「おう! 遠くない内に何かしらの回答をするよ。――――じゃあエミレア、行くか」


「う、うん。ではサージェスさん……また」



 最後の最後まで浮かない顔をしたままのエミレアは、シューマンと共に宿を出て行った。さっき言っていた依頼とやらを遂行する為だろう。


 正直な所、シューマン達は移籍しないだろう。


 エミレアの様子、シューマンとルルゥは気が付かなかったかもしれないが、俺が移籍の話をし出した辺りから変化を見せた。


 その変化の中にハッキリと感じた――――組合を移籍する事はできないと。


 どうやったら上手く断れるか、そんな事を悩んでいる感じだった。


 エミレアが移籍しないと言うのなら、パーティーを組むシューマンも移籍しないだろう。


 承諾してくれたのはルルゥだけ。二人きりと言えば聞こえがいいが、実際は二人きりにもなれん。組合が作れないのだから。



「ふむ……二人っきりだな、ルルゥ」


「な、なんですか急に? 私もこれから、依頼を探しに行きますよ?」


「いや、そうじゃなくてだな……あれだよ、無理はしなくていいからな? 自由な片翼にいた方が、冒険者としてはいいのだろうし」


「別に無理はしていませんよ? サージェスらしくないです。サージェスが寂しいと思っている所、初めて見ました」



 流石に、他人の感情が読めるルルゥに隠し事はできない様だ。


 俺だって誰でもいいと言う訳ではない。気心知れて、色々と仲良くやって来た者達を傍に置いておきたいと思うのは当然の事だ。


 だからこそ、無理強いする訳にはいかない。アイツらの自由はアイツらのもの。俺の自由に無理やり引っ張るには、(いささ)か近づきすぎている。



「じゃあ、お前は俺の傍にいてくれるのか?」


「……サージェス、何を恐れているのですか? 貴方らしくないですよ」


「恐れ……ねぇ。というか、ナチュラルに人の感情を読むんじゃない」


「そ、そんな事を言われても……私だって、好きでしている訳じゃ……」



 若干塞ぎ込んでしまったルルゥ。兎耳は力なく垂れ、目は伏せられている。


 そう言えば忘れていた。ルルゥは純粋奇跡を制御できていない。本人の意思など関係なしに、否応なしに人の感情が注ぎ込まれる。


 人の心が知れたらいい……なんて思った事は誰でもあるだろうが、果たしてルルゥの様に嫌でも感じ取ってしまう状況であれば、同じ事を言えるのかは疑問だ。



「組合を作ったら、その力の制御を教えてやるよ。約束だからな」


「あ……覚えていてくれたんですね! 忘れているのかと思いました!」


「約束は忘れない、破らない。それが俺のポリシーだ」



 忘れていたくせにどの口が言うのか。出来ない約束はするつもりはないが、俺もまだまだ未熟者だ。


 忘れてしまうのは仕方ないと心の中で言い訳をした後、俺はルルゥを連れだって自由な片翼へと足を運んだ。



 ――――

 ――

 ―



「――――げ、元気出してくださいサージェス」


「……まぁ、分かってはいた事だが」



 予想通り、誰も俺が作る組合に来てくれる冒険者は見つからなかった。


 奇跡のガイエンも、そのパーティーメンバーにも断られ、苦肉の策でシューマンの元パーティーメンバーである、カマロ達に声を掛けるもダメだった。


 意外にもガイエン達は考え込んでくれたが、やはり四大組合から小規模組合への移籍など考えられないようだ。


 俺の組合の受付はアイシャだと伝えた時は、首を縦に振りそうになっていたガイエンだったが、冒険者として上を目指す以上、四大組合がベストだと泣く泣く断られた。


 ガイエン達の夢は、黒色冒険者。その山を登るための近道は、四大組合に所属する事だ。



「とりあえず、組合の掲示板に冒険者募集の張り紙をしましょうよ?」


「そんな事していいのか? 怒られない?」


「四大組合でなら、暗黙の了解として認められているそうです。移籍する人などほぼいないので、強者の余裕……といった感じじゃないですか?」



 なるほど。四大組合という最王手から、零細になんて行く訳がないと。


 勧誘したいならお好きにどうぞ? 誰も行かないでしょうけどプークスクス!! って事か。



「ムカつく野郎どもだ……ぶっ潰してやろうか」


「サ、サージェス!? 何を物騒な事を!?」


「プークスクスなんて言われて黙っていられるかよ!?」


「だ、誰もそんな事は言ってないでしょ……」



 呆れ顔のルルゥと共に、僅かばかりの希望を見据えた募集用紙を作成し、自由な片翼の自由掲示板のど真ん中に自由に掲示した。


 横を見ると、同じような募集の張り紙がしてあった。僅かでも可能性を上げようと、周りの募集用紙を剥がして丸めたのは内緒の話だ。



「はぁ……暗くなってきたな。なんの成果も上げられず、ただ時間を消費してしまった」


「あはは、でもどこか楽しそうでしたよ? サージェス」


「マジか……楽しいのかな、俺。――――なぁ、これって自由って事か?」


「自由……どうでしょうね? その人にとっての自由って、色々とあると思いますから。サージェスが自由だと思ったのなら、自由なのではないですか?」



 何故かその言葉が心にスッと入ってきた。


 俺はどこか、自由と言うものを頭で考え、こうあるべきだと思っていたのではないだろうか?


 俺が思う事が、自由。自由に定義などはなく、本人が自由と思えばそれは自由なのではないだろうか。


 そう言えば、先生も言っていたな。


 やりたい事を、やりたいように、やりたいだけ。


 冒険者になれば自由なのではなく、冒険者になるために足掻いている今こそが、自由という事なのだろうか?


 いや、それでは結局考えているという事か? う~む、よく分からない。



「――――ようサージェス。ちょっといいか?」


「ん? シューマンじゃねぇか。どうした?」



 自由について思考を巡らせていた時、いつの間にか傍にいたシューマンに声を掛けられた。


 いつもの雰囲気とは違い、真面目で、どこか思い悩んでいる様子のシューマン。


 ルルゥと別れた俺達は、久しぶりに二人きりで話し込むため酒場に向かうのだった。


お読み頂き、ありがとうございます


明日は……無理かも

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