第十四話 自由な女たらし
短めです
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「――――って感じでな? お前の力がどうしても必要なんだよ! 俺達のためにも、サージェス自身のためにも!」
「……つまりなんだ? 俺が自由な片翼の冒険者になれなかったのは、お前が余計な事を口走ったからって事か?」
「……まぁ、そうかな」
「……やってくれましたねシューマン君。お祈りされた私の気持ちが分かりますか? 覚悟は宜しいですね!?」
「お、おお落ち着けよ!? サージェスが手を抜いて試験を受けたせいってのもあるだろ!? 手を抜いたなんて知らなかったもんよ!!」
拳を握り込み脅すような仕草を見せてみたが、確かにシューマンの言う通り自分のせいでもある。
少し手を抜きすぎたようだ。平均的な冒険者ならこのくらいだろうと思い、目立たぬように良かれと思って手を抜いたのだが。
よくよく考えれば、そんな平均的な冒険者がたった一人で蟻蜘蛛を殲滅できるのは不自然か。やっぱりシューマンなんか助けるんじゃなかった。
まあエミレアという天使と出会わせてくれたんだ、それだけでお釣りはくるが。
「俺の感動を返してくれよ。お前達は真剣に俺の事を心配してくれていると思っていたのに……さっきの謝罪はそういう事か……」
「そ、その……悪い!! こんな事になるなんて思わなかったんだ! でもまだサージェスは落ちた訳じゃない! この依頼を達成すれば、必ず……!!」
「落ちた訳じゃ……ない……?」
俺はシューマンの言葉に違和感を覚え、己に問いただしてみた。
俺は不採用、それは間違いない。シューマン達が言う、ストップが掛かっている状態ではないはずだ。
俺はお祈りされた。シューマン達が言うようにストップが掛かっているだけというのなら、お祈りなんてされていない。合否は発送をもってお知らせ致しますの状態のはずだ。
どんな状況で組合が動いているのかは分からない。ただの職員同士の情報共有の間違いなのか、はたまた他の理由なのか分からないが……俺の行動は変わらないか。
俺は一度お祈りされた身、これ以上悪くなる事なんてない。であるのであれば、俺の事はどうでもいい。
「依頼を受けるのは構わない。世話になったお前達の証言が、この依頼を達成する事で認められると言うならいくらでも力を貸してやる」
「ほ、本当かサージェス!? ありがとう……でも安心しろよ! アイシャさんは約束してくれた! この依頼を達成できれば、サージェスは自由な片翼の冒険者だ!!」
「サージェスさん! ありがとうございます! 宜しくお願いします!!」
俺の事はどうでもいい。コイツらのために動くだけ。
頼まれたからってのもあるが、俺はそれを自分で判断した。自由に決めたんだ。
なんのデメリットもない。コイツらが笑顔になるというのなら安いものだ。それにもしかしたら、本当に自由な片翼に入れるかもしれないしな。
「ところでシューマン、気になる事が一つあるのだが……」
「ああ! 依頼の事だろ? 実はさ、赤依頼――――」
「――――そのアイシャって人は女性だよな? 美人だった? ちょっと会う事って出来る?」
「え……ああ、まぁ……女性だけど……その、綺麗だったけど怖いって言うか……あぁ、怖い人ならここにもいたな……」
やはり女性か。この組合の受付にいたのはほとんどが女性だった。人目が集まる所に花を配置して、見た目をよくするのは組織として当然の事、当然の組織努力だ。
人は見た目から入る。汚い所より綺麗な所の方が良いに決まっている。俺はそんな組織努力を褒めてあげたい、花に直接綺麗だと言わせてもらいたい。
更なる情報を得ようと再びシューマンに視線を送るが、その顔はなぜか恐怖で引きつっていた。
蟻蜘蛛に襲われた時と同じような恐怖の表情だ。一体どんな化け物が現れたと言うのか。
「おいシューマン、どうした? 妖怪でも見た様な――――」
「――――アイシャさんは綺麗な人ですけど、会う必要はないんじゃないですか? あの人、煙草の匂い嫌いだって言っていましたよ?」
「サージェスさん、今の貴方の心はいやらしさで一杯です。今のサージェスさんは好きじゃありません……というか、ずっと蚊帳の外に置いて酷いです」
突然の殺気に左右を見渡すと、そこには無表情のまま怒気を放つ天使と、不機嫌さを前面に押し出し抗議してくる女神の姿があった。
怒っている姿も可愛いとは流石だ。シューマンは我関せずと黙りを決め込み、助けてはくれないようだが、助けて欲しいなどとは思わない。
俺をそこらの有象無象と一緒にしないでほしい。俺はここで狼狽えるような主人公ではない。
よく見ておけ有象無象シューマン。これが全と個の違いというものだ。
「ほらほら、そんな顔するなよ? 怒った顔も素敵だけど、笑顔の方がもっと素敵だぜ? 俺が好きなのはお前達が笑っている姿だよ? ほら、笑顔を見せてくれよ? 俺の大事な天使ちゃん達」
「うっわ~キッザ~……お前それはキツイよ? よくそんな事を恥ずかしげもなく言えるな? いくらお得意の頭ナデナデしようがその言葉で台無し――――」
「――――はぅ……サージェスさん……もっと撫でて下さい……」
「――――あぅ……ズルいです……サージェスさんのばか……」
「ふはははは…………ゲッチュ。お前達は俺のものだ」
「「はい……貴方のものです……」」
「う、うそだ……うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! この女たらしがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
組合中に響いたシューマンの叫び声であったが、またアイツか……といった目を向けられるだけで、ついには誰も同情しなくなったというお話。
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