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第十三話 自由な一体何者?

 





 自由な片翼にお祈りされた俺は、他の組合で冒険者になろうと考えた。


 だがそこに現れたシューマンとエミレアが、サージェスを自由な片翼に所属させるための名案があるという。


 それは俺にしか出来ない事らしい。この提案は俺にとっても好都合だが、一体俺にしか出来ない事とはなんなのだろうか? 


 ともあれシューマンから内容を聞かない事には始まらない。


 俺は視線でシューマンに説明を促し、それを受け取ったシューマンは語りだした。



「なぁ、なんでお前って頭を撫でただけで女の子を落とせるの?」


「……え、そっち? 今話す事ってそれなの? 他に大事な事があるんじゃないか?」


「俺にとっちゃ大事な事なんだ! 返答次第じゃ俺はお前の近くにいられない! あんな光景を見せ続けられるなんて耐えられん!」


「……別に彼女達は落ちてねぇよ、楽しんでいるだけだぞ? まぁ()いていうなら……安心が喚び醒まされてんだよ。少なくとも俺は女性の頭を撫でる時はそれを第一に考えている」


「安心……ですか。勉強になります!」



 なにやら俺の言葉を心に刻んだといったシューマンだが、お前が女性の頭を撫でている光景は想像できない。下手したら通報されてしまうだろう。


 そもそも確かに俺は安心を喚び醒まそうとはしているが、第一には考えていない。


 第一に考えているのは自分の事、つまり単純に可愛い子の頭を撫でたいという欲望だ。


 それを感じさせないのがコツよ。この人に撫でられると落ち着く、安心する。そう思わせてしまえばこっちのもんだ。


 その感情は警戒心を解き、僅かでも心を開かせる。少しでも開いたら後は抉じ開ければいいんだよ。多少強引でも開きさえすればいい、案外そういう強引さに惹かれる女性は多いのだ。


 まぁあくまで俺の持論だ。例外はあるから自己責任で頼むぜ?



「――――ってんな事どうでもいいんだよ! はよ話せや! なんなのよ俺に頼み事って!?」


「あ、あぁすまん、忘れていた。その……さっき脱退申請を行っていた時なんだけどな?」


「組合の方と色々話をしていたんですが……聞かれたんです。サージェスさんの事を」


「俺の事を聞かれた? まぁ助けたのは俺だからな。別に俺の事を聞かれても不思議じゃないと思うが……」


「まあそうなんだけどな? 簡単に言うとさ……お前って、一体何者なの?」



 ―

 ――

 ――――

 ――――――――



「――――貴方様を助けたという男性ですが、一体何者ですか?」



 アイシャ・ログレス組合職員の問い。それを聞いたシューマンはポカンとしてしまった。


 朝霧の道にされた裏切り行為を、組合に説明していたシューマンとエミレア。嘘は一切ついてなく、これ以降もつくつもりはなかった。


 そして何を聞かれても答えられる、そう思っていた時にされた問い。もちろん答えられない訳ではないが、アイシャが何を聞きたいのかが分からない。


 サージェスとは何者なのか? そう聞かれて思う。シューマン達はサージェスの事を何も知らないと。



「何者……ですか? それは、どういう意味……なのでしょうか?」


「簡単に言えば素性です。その方は蟻蜘蛛の群れを一瞬で殲滅したと仰いましたが、それは中々に信じがたい行為です」


「それは……そう言われればそうですが……」


「貴方様は先ほど嬉々として話していました。輝石を使った様子もなく、だた腕力だけで殲滅したと。そのような強者が、なんの見返りも求めず貴方様を助けたと?」



 しまった、といった表情をシューマンがしたのをアイシャは見逃さなかった。


 余計な事を言ってしまった。命を救ってくれた恩人が、どれほど凄かったかを熱弁してしまっていたシューマン。英雄に憧れる子供の様に、はしゃいでしまった事を後悔する。


 嘘は言っていない。しかしよくよく考えれば、輝石を使った身体強化もしていない状態で、蟻蜘蛛の群れを一撃で粉砕する事がどれほど異様なのかに、今更ながらに気づかされる。


 そんな事が出来る者が、この世界にどれほどいるのか。少なくとも、自分は知らないとシューマンは思った。



「……サージェスは見返りなんて求めませんでした。なぜ俺を助けてくれたのかは分かりません。アイツの性格上、気まぐれ……が可能性として高いと思いますが……」


「気まぐれ……ですか。その方は冒険者ですか? 組合証は携えていましたでしょうか?」


「冒険者ではありません。でも、冒険者になろうとしていました! なのでこの自由な片翼を紹介して……今頃、新規登録をしていると思いますが……」



 シューマンの言葉にアイシャは、後ろにいた男性組合職員とアイコンタクトを取ったようだった。


 それを受けた男性職員は退室し、数分ほど経って戻ってきた。その手には数枚の用紙が握られており、それはアイシャに手渡された。


 その用紙に目を通すアイシャ。切れ長の美しい目は、一切瞬きすることなく用紙に向けられている。


 それは時間にして僅か数十秒。どれほどの文字が書かれているのか分からないが、彼女が短い時間で内容を完璧に把握したのは雰囲気で分かった。



「……サージェス・コールマン。新規冒険者登録受付済み、合否待ち……このまま行けば合格は間違いないでしょう。あとは組合長の許可待ちの状態です」


「ほ、本当ですか!? 良かったです! ね、シューマン!」


「あ、ああ! アイツなら問題ないと思っていたけど……」



 喜ばしい事ではあるだろう。シューマンやエミレアは元より、そんな強さを持ったサージェスが所属してくれる事は、組合にとっても良い事なはず。


 しかしそれは素人判断であったようで、アイシャの顔は優れなかった。


 喜びを表すシューマン達が落ち着きを取り戻すのを待った後、アイシャは語りだした。



「残念ですが、この新規登録には私からストップを掛けます」


「ど、どうしてですか!? サージェスさんは試験を受けて、あなた方はそれを認めたのではないのですか!?」


「落ち着いて下さい、エミレア様。理由は一つです。あなた達かサージェスさん、どちらかが我々を偽っている可能性があるためです」


「い、偽り……? どういう事だよ!? 俺達は嘘なんて……」



 声を荒げたシューマンに、アイシャから厳しい目が飛んだ。エミレアの事は柔らかい言葉で落ち着きを促したのに、シューマンに対しては容赦ない威圧を飛ばすアイシャ。


 二人は知らないが、アイシャは男嫌いで有名な組合職員。まあそれは別のお話。



「シューマン様から得たサージェスさんの情報と、我々が計ったサージェスさんの強さには大きな違いがあります。簡単に言えば、あなた方が知るサージェスさんは非凡。我々が知るサージェスさんは平凡……という事です」


「そ、それが問題なのですか……? たまたま、体長が悪かったとか……面倒だから手を抜いたってだけじゃ……」


「我々は冒険者の事を完璧に把握しなければなりません。それは他ならない冒険者のためです。どちらが我々を欺いているのかは分かりません、欺く理由も分かりません。その不明瞭は災いを(もたら)す可能性がある。可能性がある以上、見過ごす事は出来ません」



 アイシャは考える、力を隠すその理由を。


 アイシャは考える、力を謀るその理由を。


 サージェスが力を隠して組合に接触してきた理由。その真意は見極めなければならない。


 分からないのであれば、災いを(もたら)す可能性の種として、組合に所属させる訳にはいかない。


 シューマンが力を謀って組合に報告してきた理由。それはやはり、先の脱退騒動に繋がる。


 シューマンは助かりたいがために嘘の報告をしており、朝霧の道の言っている事が正しいという事。


 どちらにしろ今のままでは、シューマンを信じる事もサージェスの登録も難しい。



「今のままでは、貴方様の話を信じる事もサージェスさんの登録を認める事も出来ません」


「そ、そんな!? じゃあ……どうすれば……」


「簡単な事です。あなた達とサージェスさんにはある依頼を受けて頂きます。それを見事完遂すれば貴方様の言っている事を信じましょう。サージェスさんは目立ちたくないがために力を隠した……そういう判断をさせて頂きます」



 そう言うとアイシャは、一枚の依頼用紙を二人の前に差し出した。


 その用紙は赤色で染められており、冒険者であれば誰もが一目で分かるようになっている。


 依頼難度:赤。それは高難易度を示す色。


 上から三つ目の難度色であり、黄色冒険者であるシューマン達より二つの上の冒険色。


 黄色冒険者であるシューマン達が完遂させる事は、まず不可能とされる難易度。


 それこそ、シューマンが報告したサージェスの規格外な強さでもない限り、シューマン達には完遂不可能な依頼なのであった。


お読み頂き、ありがとうございます


冒険色 依頼色

黒>金>赤>緑>黄>青>白


今後出てくるかもしれない通貨も、上記の通りです

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