ネコルラト士官学校入学試験②
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バチーン!
痛みと音が同時に発生した。左頬に痛みを感じることからビンタをされたらしい。
「……さ、最低です!初対面なのに、いえ、初対面だからってそんな簡単に女の子へ手を出そうだなんて……!!そういうのはもっとよく知り合ってからでお願いします!!ごめんなさい!」
とても混乱した様子の赤髪の彼女はぺこりと頭を下げると直ぐに翻ってネコルラト士官学校の中へと消えていった。……どうやら誤解されたみたいだ。誤解を解きに行くか考えていたら校内からサクラコが戻ってきた。サクラコは僕の頬を見るや否や可笑しそうに聞いてきた。
「ほっぺに手形が付いてるよ」
ぷぷっ、とサクラコは笑っている。どうやら思ったよりもくっきり痕が残っているらしい。
「すごく才能に恵まれた子が居たから戦いを挑んだら誤解されて……」
言って、僕は左頬を擦る。
「へー、まあアリスは誘い方が下手だからね。そういうところは師匠から教わらなかったんだ?」
「戦いの挑み方なんて師匠には教わらなかったよ」
そりゃそうだ、とサクラコは呟いて手に持っていた受け付け用紙を渡してくる。
「その子が本当に才能に恵まれているなら、もしかしたら模擬戦で当たるかもね」
用紙には注意事項の他に、今回の模擬戦がスイスドロー形式で行われると書かれていた。スイスドローということは複数の受験者と戦え、さらには勝てば勝つほど強い相手と当たる。今年は勇者も受験すると聞いたから、全勝できれば勇者とも戦えるかもしれない……!遠い存在だと思っていたけど、最大のチャンスが訪れた!
「顔がワクワクしてるよ」
「そりゃあワクワクもするよ!さっきの赤髪の子に、さらには勇者とも戦えるかもしれないんだから!ああ!今朝の師匠の話を聞いておけば良かった!」
魔力放出を見ただけで習得してみせた赤髪の少女、無限の魔力を持つと噂される勇者、それに僕の幼馴染みであるサクラコ。戦えるのが楽しみな相手ばかりで、僕の入学試験は最高なものになりそうだ。
ビガビーガっと機械音。
「まもなく入学試験を開始しますので受験者は試験棟の方へお集まりください」
スピーカーという魔道具によって拡張させた声が受験者に試験開始の案内を知らせた。
「さあ、行こうか」
「うん、そうだね」
期待に胸を膨らませて僕たちはネコルラト士官学校の門をくぐる。まずは筆記試験と魔術試験を終えて、軽く昼飯を食べたら模擬戦闘試験だ。
僕は『自分が魔術を扱えない』という現実を忘れ、イーリス聖王国ネコルラト士官学校の入学試験を受けに行った。