ネコルラト士官学校入学試験①
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あなたの力は本当にあなたのものですか?
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足に纏った魔力を地面を蹴ると同時に放出して移動速度を格段に上げる力技『縮地術』対サクラコの風魔術ウィーンと体魔術マッソを組み合わせた複合魔術との異種長距離走対決は、瞬間的な馬力差で僕の方が先にゴール地点のネコルラト士官学校の門にタッチしたのだった。街外れから王都を挟んで反対側の街外れにあるネコルラト士官学校までの全力ダッシュはさすがに無謀過ぎたと思う。息を整えるために歩きながら左回りにクルクル回り、吹き出る汗をタオルで拭う。すーはー、すーはー。
「大丈夫、アリス?」
そう聞いてきたのは僕と一緒に走ってきた僕の幼馴染みのサクラコだが、その額には汗一つかいていない。
「な、なんとか……。サクラコはまだまだ元気そうだね」
「あんな力技よりも魔術の方が燃費は絶対に良いからね」
たしかに。燃費の面だけで考えれば、一蹴りずつ放出する魔力よりも一定量ずつ魔力を消費する魔術の方が絶対的に少ない。消費する魔力を術者だけで補ってるとなれば術者本人に掛かる負担は相当なものなので、今回のような魔力放出はあまりオススメできたものではない。
まだ息が整わずクルクル回ってる僕を見てサクラコは言う。
「先に入学試験の手続きしてくからアリスは戻ってくるまでに息整えてといてね!」
言ってサクラコはぱたぱたと士官学校の門をくぐり、奥に見える受付の方へと向かった。
しばらく息を整えるためにその場で回っていると声が聞こえてきた。
「あ、あのっ!さっきのダッシュ、ど、どうやったのでしょうか…?」
回るのをやめ、声の主の方を見る。よくメイドに手入れされているであろう艶のある赤い髪はツーサイドアップでまとめられ、僕を見つめる瞳は碧色と珍しく、体型はスラッとしていて確かに士官学校入学に選らばれるに相応しいと言える。
彼女が勇気を出して声を掛けてきたことが少し赤い耳の色でわかった。未知なるものに興味があり、恥ずかしさよりも好奇心が勝った証拠だ。とても魔術師に向いている。
「あれは地面を蹴るタイミングで魔力を放出してるんです」
「魔力を放出…ですか?」
魔力放出に対して疑問符を浮かべる彼女。
「魔力を放出というのはこんな感じです」
言って、彼女に手本としてゆっくりと少ない魔力を右手に集め、放出して魔力球を手の上にぷかぷかと浮かせる。
「なるほど……!えっと、こんな感じでしたよね……。ふんっ!」
彼女は見様見真似で魔力を右手に集め、放出する。小さいながらも魔力球はふわふわと空の方へと飛んでいった。
「……できたっ!できましたよ!」
彼女は嬉しそうに僕へ報告する。僕が何年も掛けて成功させた魔力球を一度見ただけで成功させた。彼女には間違いなく才能がある。
――是非とも戦ってみたい。
そう思った時には僕は彼女の手を取り、師匠直伝の女の子を誘う時の笑顔を使用した。
「僕と一戦いかがですか?」