疑問は確信に
どうもココアです。
前話前書き忘れちゃったんですよ。
皆さん、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
「……これか男性恐怖症」
一つの答えに至った俺は、写真を自室のベッドに投げ置いた後、父の部屋にあるパソコンを使っていた。そこで『男性恐怖症』を検索していた。
検索してみれば意外にもたくさんヒットしたのに驚いた。
「こんなにあるのか……」
実際の体験談を書きこんで相談している人や、対策や症状について書いてあるサイト。
「……過去に男性から性的被害や暴力を受けた人が多い」
どのサイトでもそのことが書かれていた。過去に男性トラブルを起こして、そのまま男性に対してトラウマを抱いてしまうらしい。
「解決方法は……」
マウスを動かしてクリックする。しかし、どのサイトも明確な正解というものは書かれていない。どれも要領を得ないというか、絶対と言い切らないようなものばかりだった。
「それでもやっぱり『段々と慣らしていく』っていうのがどこでもある答えなのか」
専門的な場所でカウンセリングを受けたり、徐々に慣らしていくだったりはどこのサイトにも共通して書いていることだった。
全員が全員当てはまる治療法ではないだろうけど、結局はこれが一番の近道だというのだろうか。
「まあでも蜜柑ちゃんが男性恐怖症って決まったわけでもないし、完全に俺の妄想だと思えばいいか!」
考えすぎて頭が痛くなりそうだったので、思考を停止させた俺はパソコンをシャットダウンして父の部屋を後にした。
「さーて。晩飯まで単語でも覚えますか」
リビングから父と智子さんが談笑している声がするのを聞きながら自室へと戻る。もちろん、蜜柑ちゃんの声が聞こえないことは気づいていたけれど、気づいていないふりをした。
あの二人は今、幸せをかみしめている。俺はまだ父が何故母と離婚したのかを知らない。母が悪かったのかも、父が悪かったのかも知らない。そして智子さんが離婚した理由も知らない。
“離婚”ということは、親が考えている以上に子供に大きな影響を与える。そしてそれは……“再婚”も同じことである。
「……どうせ離婚するなら生まなくて良かったじゃねえか」
――“親は子供を選べるけど、子供は親を選べない”
そんな言葉をどこかで聞いた覚えがあるけれど、本当にその通りだと思う。あの人が親なら、あんな子の家族だったらと今まで何度思ったことだろうか。
いくら願っても、いくら望んでも、いくら妬んでも変わらないことくらい分かっている。けど、そう思わずにはいられない。
「……単語覚えよ」
そして俺は英語の単語辞書を開いた。
◆◆◆
――日曜日。
昨日は朝の5時に父にたたき起こされたけれど、さすがに今日はそんなことはなかった。時計を確認したら午前10時を示している。
「10時!?」
それを見た瞬間、ベッドから飛び起きて急いでリビングへ向かう。やってしまった。完全に寝坊してしまった。
別に学校はないから遅刻ではないのだが、朝食も作ってなければ洗濯もしていない。何より買い出しに行かなければ冷蔵庫は空っぽである。
「あら?おはよう優人君。起きてくるのが遅かったから、台所の方に朝ご飯置いてあるからね」
勢いよくリビングのドアを開けると、目の前にはエプロンをしたままコーヒーを運ぶ智子さんの姿があった。
「あ、おはようございます」
挨拶を返しながら何となく部屋を見渡す。台所には智子さんの言った通り、ラップがかかっているお皿が二つ並んでいた。たまっていた洗い物も片付いていて、ベランダには洗濯物も干してある。残っているのは掃除くらいだけれど、持っていたコーヒーを父が座る前の机に置いた後、流れるような動作で掃除機に手をかけた。
そっか……俺はもう、家事やらなくてもいいのか。
離婚した当初は父も全く家事ができず、たまに家事代行サービスなどを利用したりしてたけど小学校高学年くらいから何となく俺が家事を担当していた。
最近は完全に俺が家事をすることになっていて、朝食も昼食も作るのは俺だった。夕食は作らない。父が帰ってくるのかどうか分からないからだ。
「優人君受験生なんでしょ?勉強頑張ってね」
「えっと、ありがとうございます」
素直に応援してくれることが照れ臭くて、小さな声でお礼を言った。その後俺は智子さんが用意してくれた朝食を食べて、自室に戻って勉強の続きをすることにした。
「昨日は英語やったし……今日は国語でもやるか」
学校で配られた試験の過去問集テキストで国語のページを開く。
「最初は漢字の読み書きか」
スマホでタイマーを1時間に設定し、本当の試験と同じ時間で行う。漢字は覚えれば解けるからわかりやすい。でも、俺は昔から『国語』が苦手だった。
中でも一番苦手なのが長文問題。著者の考えや主人公の気持ちを考えたりすることが苦手だった。
「……この時、武はどんな気持ちだったか。本文の言葉を使って答えなさい」
今回の長文は犬の話についてだった。主人公の武が子犬を拾い、その子犬がある日突然逃げてしまう話。
誰よりも、何よりも可愛がっていたのに子犬が逃げ出してしまった。
――“僕のことが嫌いになったの?”
――“僕がちゃんとお世話をしなかったからなの?”
子犬が逃げ出した日、主人公の武は大粒の涙を流して泣いたらしい。延々と自分のことを責め続けながら、追い込み続けながら泣いたらしい。
その時の気持ちを答えろ、とは何て残酷な問なのだろうか。
『悲しい』や『辛い』の一言で終わらせればいいのに、それだけでは終わらせてくれないのだ。感情というのは本当は単純であるはずなのに、物語はそれを複雑にする。それは感情に感情を重ねるからだ。
感情に感情を重ねたとき、また新たな感情が生まれる。そうすれば新たな考えが産まれる。そうして繋げていくと、結局答えが増えていく。
「だから国語は苦手なんだよなぁ」
俺もあの日、別の言葉を言っていれば答えは違っただろうか。他の感情を抱ければ、感情を表に出せば違う答えに行きつくことができただろうか。
――それとも……ピピピ!ピピピ!
「うおぉ!?」
結局、最後の問題は空欄のまま制限時間が来てしまった。
「自己採点もしておくか」
テキストの最終ページに書いてある答えを見て、赤ペンを片手に自己採点をする。
「……74か。よくも無いけど、悪くもないか」
平均より少し上程度、中の上という一番ツッコミしずらい点数をとってしまった。
「ちょっと休憩するか」
ただの単語練習や漢字の練習とは違い、本当の試験を想定して行う実戦形式は予想よりも体力を削られる。何か飲もうかと、リビングへ足を運ぼうとした。
そして、階段を降りると玄関で蜜柑ちゃんが家を出ていくのを智子さんが見守ってた。
「あれ?蜜柑ちゃんどこに行ったんですか?」
「ちょっとおつかいを頼んだのよ。早くこの土地にも慣れてほしいし、気分転換にもなるだろうしね」
そういって智子さんはリビングへ戻っていった。バタンと玄関が閉まる音が聞こえた瞬間、俺は冷や汗が止まらなくなる。
そして、再び『男性恐怖症』という言葉が頭の中を過った。
“気のせい”という言葉で片づけられればいいのだが、一度気にしてしまったらもう気にしないということは不可能である。
「……くそ!」
俺は走って自室へと戻り、上着を着た後に蜜柑ちゃんの後を追った。一番近いスーパーはここから歩いて5分程度。たった今家を出たばかりだから、上着を取ってきたロスタイムがあっても走れば余裕で間にあうだろう。
「いた。蜜柑ちゃーん」
「!!?」
蜜柑ちゃんの後ろ姿を見て、名前を呼びながら駆け寄る。すると蜜柑ちゃんは、まるでこの世の終わりのような表情をしながら体を震わせた。
「……」
それに気が付いた俺は足を止め、寂しい目で蜜柑ちゃんを見つめる。俺が止まっても体の震えが止まらない蜜柑ちゃん。
顔を下に向け、明らかに怯えているのが分かる。
「蜜柑ちゃん……答えたくないなら言わなくてもいいけど、一つ聞いてもいい?」
そして俺はなるべく驚かせないよう配慮した声量でいった。
「男の人は……怖い?」
読んでいただきありがとうございます。
……皆さん、私明後日から仕事なんですよ。
社会人は辛いですよね。明日から、または既に仕事が始まっている方はすみません。
お互い頑張っていきましょう。
次回もよろしくお願いします!