もしかしてこれはデート? その2
どうもココアです。
大分お久しぶりの更新となりました。
――都心にある大きなショッピングモール。
衣料品店や雑貨屋、本屋、飲食店、ゲームセンターに映画館とほぼ全ての目的を果たせるこの場所。今日が日曜日ということもあり、かなりの人で賑わっている。
「めちゃくちゃ人がいるな……」
歩きながら率直に感想を呟いた。別に初めてここにきたわけではないが、頻繁に来るような場所でもないのでこの人混みも慣れていない。
「来たばっかりでそんなことでどうするの……」
そう呆れるように呟いた桜はいつもと変わらない顔をしながら隣を歩いていた。正直、失礼ながら桜は俺よりも人混み慣れをしていなさそうに思っていたのでその反応は正直に言って悔しかった。
「なに?」
「いや、意外と人混み平気なんだなぁって。何なら俺よりも先に帰りたいっていうタイプだと思ってたから」
「じゃあ帰る」
「止めてください。ここで俺を一人にしないでください」
体を後ろに向けた桜に、俺は反射的なスピードで低姿勢になって謝った。もちろん桜が本気ではないことは分かっているけれど、『親しき中にも礼儀あり』ということだ。
「それでどこから回るの?分かってると思うけど、全部を回るのは無理だからね」
「それくらは分かってるって。そうだな……」
ここのショッピングモールは広く、店の数も多い。しかし多すぎるので一日で回るのはかなり難しい。だからある程度回る店を決めておかないと本来の目的を達成できない可能性がある。
ということで、俺と桜は所々に置いてあるショッピングモールの案内図を見ながらどの店に行くか吟味した。
「取り合えずプレゼントの候補はリップクリームとぬいぐるみ、小物系か」
「それなら衣料品店はカットして、このお店とかから行く?」
そう言いながら指を指したのはあるファンシーショップだった。よくみたらその店の周りには、プレゼント候補になっている物が置いてある店が多い。
「そうだな。最初はこの辺に行ってみるか」
「じゃあ二階に上がらないと。あ、エスカレーターはあっちだよ」
そう言いながら桜は袖を引っ張ってきた。その動作が俺には意外で、少し反応に遅れつつもそれを悟られないように平常を装った。
「そう言えば今日の桜はいつもと違うな」
「!!?」
エスカレーターに乗っている間、特に話題が思いつかなかった俺は桜の服についての話をふった。正直、まだ今の桜は凝視できないけど最初に見た時よりは大分目が慣れてきた。
「そ、それってどういう意味?」
「え?」
恥ずかしそうに、それでいてどこか期待しているような物言いに思わず呆けたような声が漏れる。
てっきり俺は、いつも通りのクールな返事が返ってくると思っていたので、今の桜の反応は予想外だった。
「どういう意味って……」
こういう時に模範解答を持ち合わせていない俺は、どんなことを言えば傷つけないかを必死で考えていた。当たりを引くというよりは外れを引かないようにしている感じだ。どこに地雷があるのか分からない以上、下手なことを言うわけにもいかない。
考えている途中、確認をするように一瞬桜の方に意識と視線を送る。
「――似合ってると思うよ俺は」
すると、俺の口は勝手に動いていた。桜の不安と期待が入り混じっているようなその表情を見た途端に。
「そう……」
俺の言葉に対しては桜はとても淡泊な反応を見せた。怒りもせず、喜んだりもせず、ただ頷いただけのような反応。無意識に言っていたとはいえ、地雷は踏まなくて済んだようで俺も一安心だ。
「……ありがとう優人」
「ん?なんか言ったか?」
ボソッと桜が呟いた気がしたけど、小さい声で上手く聞き取れなかった。すると桜は慌てた様子でこちらを向き、首がもげそうなほどの速度で横に振る。
「何でもない!何も言ってないから!」
「いや、それならいいんだけど……」
さすがにそこまで慌ててたら何か言っていたという察しはつくけど、本人が言っていないということは詮索はしない方がいいだろう。
俺としては桜があそこまで取り乱した姿を見たのは初めてだったので、少し新鮮な気分だった。
◆◆◆
「だめだ……数が多すぎる。そして女子怖い」
取り合えずプレゼントに良さそうな店を片っ端から入ってみたけど、俺が想像していたよりも種類があり難航していた。それに店の中は妙にチカチカしているし、当然と言えば当然だけど客が女性しかいないので場違い感が半端じゃなかった。
「まあしょうがないよねえ。優人はただでさえ人混み慣れてないのに今はクリスマスシーズンで人が沢山いるから」
「そうなんだよなぁ」
俺と桜はいまちょっとフードコートで休憩をしている。お昼は手頃に食べれるからと、桜の希望もあってクレープを食べて今は飲み物を飲みながら休憩中だ。
「あの中から探すってなったら何日あっても足りないぞ……」
「見てきた中で良いと思った物くらいあったでしょ」
「良かったの……あるにはあるけど」
「そういうのを候補に入れて行って、最終的に選んだものの中から決めていったら?」
「それじゃあまずは……」
桜のアドバイス通り、見てきた中で蜜柑ちゃんが喜びそうなものをスマホのメモ機能に打ち込んでいった。
結果、あれだけ悩んでいたのが馬鹿みたいで選択肢を三つに絞ることができた。
「俺の悩んでた時間って何なんだろうな」
「無駄な時間じゃない?」
「そんなこと言わないでくれ……」
もちろん本気で言っていないことくらいは分かっている。けど、それなら優しい言葉をかけてほしかったよ。
「それで?結局どれで悩んでるの?」
「ああ。こんな感じなんだけど」
問いかけてきた桜に、俺はスマホ画面を見せる。そこにはさっき俺が打ち込んだ、プレゼントの最有力候補トップ3が記載されている。
まず一つ目はリップクリーム。これは桜からアドバイスをもらった物で、薄いピンク色のものだ。
そして二つ目は小物入れ用のポーチ。
最後はもこもこした生地が特徴の手袋。
改めて見てみると無難なラインナップになっている。当たりと言うほどでもないが、外れを引かない物だろう。
「どれがいいと思う?」
「別に……そこまで変な物が無いから、どれでも大丈夫だと思うけど」
少し残念そうな表情をしながら桜が言った。良くも悪くも正直な桜がそういうなら、俺のプレゼントを選びセンスは並程度にはあるということだろう。
「いっそ全部買うか」
「そんなにお金あるの?」
「無いです」
「じゃあどれか一つにしないと。それに、そんなに沢山もらったら逆に困るでしょ」
「それもそうか……」
残りの金もそうだけど、プレゼントはもらいすぎると感謝の気持ちよりも相手への申し訳なさの方が強くなってきてしまう。これは蜜柑ちゃんを元気づけるためのプレゼントなので、困らせてしまっては本末転倒だ。
「うーん……やっぱり桜が言ってたリップクリームにしとくか。あんまり自分が買わなそうだし」
「蜜柑ちゃんは確かにそうかもね」
「んじゃちょっと買ってくるわ。直ぐ戻ってくるから、ちょっとここで待っててくれ」
「分かった」
そう言うと優人は走ってお店の方に向かった。決めたことは直ぐに行動に移すことが優人のすごいところだと思う。
「……」
買い物に誘われた時、私はとても嬉しかった。特にロマンチックでもない誘い文句だったけれど、それでも私は嬉しかった。すっかり浮かれて普段は着ないような服を着てここにやってきた。ちょっと時間は空いちゃったけど、優人は褒めてくれてそれも嬉しかった。
「でもやっぱり私じゃないんだよね……」
それでも優人はずっと蜜柑ちゃんを見ている。ここにはいない蜜柑ちゃんのことをずっと考えて、蜜柑ちゃんのことを一番に思って、蜜柑ちゃんのために動いている。プレゼントを選んでいる時も、隣を歩いている時でもそれを感じた。
だから……今は少し虚しい気分。
私がどんなに気合を入れても、優人に見てもらおうと努力しても意味が無かった。最初から分かってた。ずっと悲しい顔をしていた優人が楽しそうになったのは蜜柑ちゃんと一緒に暮らしてからで、私にはできなかった。
「お待たせ桜」
「ん。ちょっと遅かったね」
そうこうしているうちに優人が少しだけ息を切らしながら帰ってきた。よくよく見ると、紙袋を二つ持っていることに気が付いた。
「それ、二つあるけどプレゼント二つ買ったの?」
「ん?ああ違う違う。一つは蜜柑ちゃんのだけど、もう一つのはお前のだよ」
「えっ?」
特に恥じるでも疑問を抱くようでもなく、当然のことのように言った優人は紙袋をテーブルに置いた。
「……ここで見てもいいの?」
「いいぞ。ちなみに俺の独断で買ったから気に入らなかったら自分で他のを買ってくれ」
「他の?」
優人の言い方に少し首を傾げながら紙袋に手を入れてみると、何やら柔らかい生地のような感触が伝わった。ハンカチにしては形が変とかと、何をくれたのか想像をしながら取り出してみると暖かそうな手袋が顔を出した。
「この間帰るとき手袋してなかっただろ?まだまだ寒い時期は続くから買ったんだよ」
少し早口になって、私の反応を気にするように優人は視線を送ってくる。さっきはあんなことを言っていたのに、やっぱりちょっとは気にしているみたい。
「ありがとう優人。大切にする」
そんな優人を安心させてあげようと、私は今自分ができるせいいっぱいの笑顔を向けながらお礼を言った。多分、今までで一番いい笑顔をしていたと自分でも思う。
それくらい嬉しかった。
てっきり蜜柑ちゃんのことしか見ていないと思っていたのに、ちゃんと少しは私のことも気にかけてくれていた。まだ私にはチャンスがあると思わせてくれた。
それがもらったプレゼントより、何よりも嬉しかった。
読んでいただいてありがとうございます。
次回もよろしくお願い致します。