犯人捕獲作戦
どうもココアです。
めちゃくちゃお久しぶりです。
まだ書くことはやめておりません。
皆さん、お待たせいたしました。
「……首謀者は如月梓か」
「まさかこんなに早く犯人を見つけられるとは思わなかったな」
鈴木君と別れた後、クラスへ戻った楠と共に作戦会議を開いていた。あと5分程度で授業が始まるが、そんなことを気にしてはいられなかった。
「犯人は分かったけど、問題は捕まえる方法だよな」
「そうだろうな。鈴木の言っていることが事実であることは確かだが、犯人だとつるし上げるには証拠がない」
そう言いながら楠がノートにペンを走らせる。今の段階で得ている情報を少しでも可視化させたいのだろう。当然得ていないことは書くことが出来ないので、つるし上げるのに何が必要なのかより明確になる。
楠がノートにまとめたことはこうだった。
・いじめの主犯格は如月梓(中心人物だが、他にも取り巻きがいる可能性有)
・一年女子のトップ的な存在
・被害者は優人妹と鈴木、もしかしたら西条茜
・鈴木は写真を撮られて口外しないよう口止めされている
・他に目撃者がいたかどうかは不明
「……改めて書いてみるとさ」
まとめおいた楠がペンを置き、文字を撫でるようにして指をさす。
「一日だけで結構な情報を集められるもんだな」
「確かにそうだな」
まだ情報を収集を始めて半日程度しか経っていないというのに、もう主犯格まで分かっている。後はいじめをしているという決定的な証拠を掴むことが出来れば、如月梓をつるし上げることができる。
まさに後一歩と言いたいところだが、その一歩が近いようで遠いような気がしてならなかった。
「問題はどうやってこいつがいじめの主犯格であるかを証明するかだな」
「やっぱり現場を押さえるのが一番手っ取り早いんじゃないか?」
「そりゃあそうだが、そう簡単にいじめの現場に遭遇できるもんじゃない。いじめしてる側も馬鹿じゃないから、見つかりにくいところでやってるだろ」
「それもそうか」
いじめが無くならない理由としては、『いじめが行われているのを知らなかった』というケースが多くあげられる。そして、もう一つは『いじめをしているのは知っているが、告げ口をしたら自分が標的になる』ということで口を塞ぐ。
学校側もいじめがあるということを表沙汰にはしたくないので、教師から率先していじめを見つける行動をとったりはしない。
だからこそ、いじめている現場を押さえるのが一番重要なことなのだ。
「……」
「……」
思考を続けるが、一向に妙案が思いつかない。チラッと楠のことを見るが、ペン先をノートにバウンドさせたまま頭を抱えている。本来は楠が俺に協力するという体制だったのだが、楠の後輩もいじめの被害者の一人ということもあって真剣にならざるを得ないのだろう。
……普段の楠からは感じ取りにくいが、こんなにも後輩思いなところがあるんだな。
「あ、そろそろ授業始まるか」
「この話はまた後でだな」
時計を見ると、もうチャイムが一歩手前のところまで針が来ている。楠は一度ノートを閉じて、こちらに向けていた机を黒板の方に向ける。
すると、丁度よく授業担当の先生が前の扉から入ってきた。次の授業は歴史ということで、とてつもなく眠くなる授業だ。
「はい。じゃあ授業始めるぞ~」
入ってきた小太りの中年男性の名前は佐々木。低い声はどこか気だるげで、覇気が全く感じられない。佐々木は授業中に寝ていても注意しないが、私語は怒るというアウトとセーフのラインが分からない教師だ。
外見からもそうだが、性格も良くないので生徒からは特に嫌われている。
「じゃあ今日はこの前の続きで……」
教科書を見ながらチョークを手に取り、黒板に書いていく。まだ始まって3分もたっていないが、この時点でクラスの半数が腕を枕にして伏せている。
「……」
飯を食ったばかりで、ただでさえ眠くなるというのに歴史の授業ともなればそれが促進される。俺も内申のために眠ったりはしないが、授業をきちんと聞いているわけでもない。幸い俺の席は窓際なので、退屈つぶしに外の景色を見ている。
(……早く終わらねえかな)
外で体育をしているクラスを見ながら、心の中で呟いた。
◆◆◆
――歴史の授業の退屈と戦い、そのあとは数学という面倒なものと戦ってようやく一日の授業が終わった。
「楠は……部活か?」
昼休みの続きをしたかったが、前の席にいる楠は制服からジャージに着替えていた。
「悪い。あの件なら明日にしてくれ」
「引退したんだったら行かなくてもいいんじゃないのか?ってか、お前受験勉強はちゃんとしてんのかよ」
そろそろ12月に入ろうとしているこの時期。部活をやっていた人もとっくに引退しているはずだが、楠はほぼ毎日部活に行っている。
「勉強はぼちぼちだな。俺は体動かしてないとダメだからさ」
「さすがは陸上部の元エース。まああの件に関してはちょっと考えをまとめておく」
「おう。俺も走りながら考えとく」
楠はそのまま走って教室を後にしたが、一度出たところでぴょこっと顔だけ出してこちらを見ていた。
「言うの忘れてたけど、あんまり一人でやろうとするなよ」
「え?」
「じゃあな」
「ちょっと待て――って、本当に行ったか」
どういうことかと問いただす前に、楠は行ってしまった。何であんなことを言ったのか腑に落ちない点がいくつかあるが、それはまた明日聞くことにして俺も早々に帰ろうとした。
「……蜜柑ちゃん大丈夫かな」
一人で階段を下りているところで、不意に蜜柑ちゃんのことが頭をよぎった。最後に会ったのは昨日の夕方、ずぶ濡れになって帰ってきたところだ。
いじめられたという話を聞いてからは、部屋にずっと引きこもってばかりで顔どころか声すら聞いていない。
「……」
きっと過去にもいじめられた経験はあったはずだ。でも、今回はいつもとは違う。なぜなら今までの学校生活よりも楽しかったからだ。今までは学校に行くこと自体が『苦痛』になっていたはずだが、今回は行くことが少し『楽しい』に変わっていたからこそショックが大きかったのだろう。
「西条茜が気になるな……」
今の状況を少し整理すると、やはりその存在が一番気になってしまう。蜜柑ちゃんが『学校生活楽しい』と思えるようになったのは、彼女の存在も大きいはずだからだ。
しかし、そう思い始めた瞬間に再び苦痛に変えられた。薔薇色になりかけていた学校生活を灰色に塗り潰されたのだ。
もし、西条茜が全て裏で仕組んでいたとすれば。蜜柑ちゃんだけを狙って陥れようとするために近づいたとしたら……。
「さすがに考えすぎか」
妄想もいいところだと、自分自身にツッコミを入れて階段を降りていく。
「……」
この時の優人は色々なことを考え過ぎて気づかなかったのだろう。誰かが近づいてきていることに。
「えっ――」
気が付いたのは、身体が少し宙に浮いた時だった。背中に少し重さを感じたと思えば、自分の身体が宙に浮いて前に倒れようとしている。
誰がやったと、首を後ろに回すが、少し茶色がかった長髪しか確認できなかった。
そのまま俺は階段を落ちていった。
読んでいただきありがとうございます。
ここまで長く書かなかったのは多分……久しぶりだと思います。
次回も懲りずによろしくお願いいたします。