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林檎と蜜柑どっちにする?  作者: ココア
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明日からは

どうもココアです!!


本日更新です。

よろしくお願い致します。


――午前の授業を乗り越えてやってきた昼休み。

 各々、好きな人同士で机を寄せ合って弁当を広げるが、俺は一人席を立って教室を後にした。


 お弁当を二つ持ちながら、早歩きである場所へと向かう。その場所はこの学校で特に人気のない階段で、いつも昼食を食べているところだった。今日はなぜ急いでいるかと言うと、俺が食べる相手の分の弁当まで持っているからだ。


「お待たせ」


 いつもの場所に行くと、そこには艶やかな黒髪をなびかせる一人の少女――蜜柑ちゃんが待っていた。俺の声に反応した蜜柑ちゃんは、目を輝かせながら子犬のように近づいてくる。


「蜜柑ちゃんの分の弁当まで持たされたのをすっかり忘れてたんだ」


 頭を下げながらお弁当が入っているピンク色の袋を手渡す。受け取った蜜柑ちゃんは「やっぱり」と一言呟いた。どうやら、俺が蜜柑ちゃんのお弁当を持っていたことは分かっていたらしい。


 少しの談笑の後、同じおかずが入ったお弁当を広げて食べる。今日のメニューは、昨日の残りの生姜焼きにほうれん草のおひたし、かぼちゃのコロッケに卵焼き(甘め)だ。サイズとコロッケのサイズなど、少し違いはあるけれど俺と蜜柑ちゃんのおかずは一緒だった。


「そうだ蜜柑ちゃん」


 お弁当を一口、二口食べたところで話かける。一応タイミングには気を付けたつもりで、口に何か入っている時ではなかったはずだが、それでも話しかけてくるのが予想外だったらしく意外そうな目をしながらこちらを向く。


「明日からお昼はクラスで食べる?」


「えっ?」


 突然の提案に、理解が追いついていないようだった。向けられた純粋無垢な瞳に、不安と疑問がにじみ出ている。特に不安の方が大きいみたいで、何か嫌がれるようなことをしただろうかとでも思っていそうだ。

 蜜柑ちゃんは他人に気を使いすぎることがあるので、突き返せば簡単に身を引くことだろう。しかし、俺がこの提案をしたのは、蜜柑ちゃんを嫌悪したからではない。むしろ、蜜柑ちゃんのためを思ってのことだ。


「いやその悪い意味じゃない。実は今朝蜜柑ちゃんに行ったとき、楽しそうに話しているところを見てさ。やっぱり友達とかと一緒にご飯を食べた方が良いんじゃないかって思ってさ」


 実際、教室で友達と仲良さそうに話してる蜜柑ちゃんはとても楽しそうだった。家や俺に見せる笑顔とは少し違うような、もっと距離が近いような笑顔を見せているような気がしたからだ。そして、理由を聞いた蜜柑ちゃんは少し寂しさを感じさせるような笑顔を向ける。


「ありがとうございますお兄さん。……正直に言って、その提案は嬉しかったです」


 頭を下げながら言ったので表情は見えないが、声が震えている。それは悲しくて震えているのではなく、喜びで震えていることには直ぐに気が付いた。


「もちろん!お兄さんと一緒に食べるのが嫌になったからではないです!」


 顔を上げて『そこは勘違いしないでくださいね』と、慌てて付け足すと再びはにかむ蜜柑ちゃん。提案していて何だが、ここまで喜んでくれるとは思っていなかった。きっと、何かあるのだろうと予想はつくが、俺はあえてそれを聞いたりはしない。


 ここまで喜ぶということは、過去に似たようなことがあって一度失敗をしているのだろう。だが、蜜柑ちゃんは過去に大きなトラウマを抱えている。だからそれを彼女の口から語らせるのは心苦しかった。


「そう言えば蜜柑ちゃんの友達って、名前は何て言うんだ?」


「名前ですか、名前は西条茜さいじょうあかねさんです」


「西条茜……」


 知らない名前だ。まあ、当然と言えば当然なのだが。もしかしたら同学年に兄や姉がいるかもと思い聞いたが、あいにく“西条”という苗字の生徒は3年の中では聞いたことがない。180人ほどいるので、どこか見落としがありそうだが、気づかないのなら元々関わりがないのだろう。


「あっ、もう予冷か」


 昼休みの終わりが目の前であることを示すチャイムが響き渡る。この人気のない階段で食べる昼食も、もう無くなってしまった。

 昼休みの度に教室を出ることも無くなれば、蜜柑ちゃんのクラスに行く回数も減るのだろう。今はまだ登下校は一緒だが、そのうちそれも無くなっていくのだろうか。


 それを思うと、より一層寂しが募ってくる。


「それじゃあお兄さん。また放課後に」


「おう」


 ペコっと、少しだけ頭を下げて蜜柑ちゃんは自分の教室へ戻っていった。一人で教室に戻る蜜柑ちゃんの背中を数秒眺めた後、俺も同じように自分の教室へと戻った。


◆◆◆













――次の日の昼食。

 昨日約束した通り、蜜柑ちゃんは友達と食べるので俺は自分の教室を出る必要がなくなった。だから自分の机に弁当を広げ、静かに食べていた。


「あれ?今日はここで食べるのか?」


 すると、前の席に座っている楠木が振り返りながら持っているコッペパンの袋を開ける。


「今日から別々に食べることにしたんだ」


「……ついに拒絶されたか」


「違う。蜜柑ちゃんも食べるなら友達と食べた方が良いだろ」


 いつも通りの楠木の茶化しも軽く受けながらしながら、ウインナーを口に運ぶ。楠木は俺がここで昼食を食べることが分かると、嬉しそうに椅子をこちらに向けて自分の昼食のパンを俺の机に並べる。


「いや~良かった。最近俺、お前が居ないから一人で食ってたんだよ」


「別にいいんじゃないか?」


「いやいや、飯は誰かと楽しみながら食った方が旨いに決まってる!」


 そう言いながらコッペパンを頬張る楠木。今日の楠木の昼食は、今食べているコッペパンと机に並べられたパン数種。メロンパンにチョココロネ、そしてあんぱんというラインナップだ。


「……今思ったけど、随分と甘いパンが多くねえか?」


「ん?そうか?」


 楠木の表情を見るが、指摘されても一切変わる様子がない。どうやら本当に無意識に買っていたらしい。よくよく見たら今食べているコッペパンもピーナッツクリームだった。甘いパンをそんな何個も食べられるものかと、関心と呆れがこもった息をついて弁当を口に運ぶ。


「ところで優人は志望校どこにしたんだ?」


「志望校?どうしたんだよ急に」


 突然の質問に、思わず耳を疑ってしまった。言葉こそ無難で、自然な返しだったと思うが内心めちゃくちゃ驚いた。むしろ答えた今の方が驚いているほどだ。

 なぜここまで驚いているかと言うと、この楠木という男はおせじにも優等生とは言えない生徒だ。


 成績は中の中から中の下。運動神経はそれなりに良くて、容姿もかなり整っている方。運動している姿を遠くから見ているだけなら、普通にカッコいいと言える。だが、普段の性格を知っている俺からしたら騙されているとしか言いようがない。いつも人をおちょっくって、人を小馬鹿にしている男。俺も何度振り回されたことか分かったものではない。

 そんな奴が急に真面目なことを言い出したので、驚くのも無理もないだろう。


「楠木らしくないぞ」


「普通に酷くね?」


「だって本当のことだし」


「さすがにもう中3の12月だぞ」


 そう言いながら楠木は教室の前に張ってあるカレンダーに親指を向ける。そのカレンダーは、12月4日を示していた。私立受験は年明け直ぐ。都立や県立はもう少しあるが、そろそろ受験の緊張感がやってくる頃だろう。


「確かにそうだな」


「そうだろ?それでどこにしたんだよ」


「……共鳴高校」


 楠木の問いかけに小さな声で答えた。俺が言ったのは県立共鳴高校。正直に行って、そこまで特出した特徴はない高校と言っていいだろう。進学校であることは変わりないが、他の場所でも良かったんじゃないかと聞かれたら少し困っしまう。


「共鳴高校?また渋いところと言うか、地味なとこを選んだな」


「それはごもっとも」


 この高校を目指し、本当に頑張っている人には申し訳ないが俺は楠木の意見に賛成だった。そう、共鳴高校は本当に地味なのである。ちょっと偏差値が高い以外は、特に何もない高校だ。


「まあ優人らしいと言えば優人らしいか」


 呆れたように言った楠木に疑問が生じる。それは一体どういうことかと。思い切って聞いてみようと思ったが、そこで昼休みの終了を示すチャイムが鳴り響く。


「おっ、もう終わりか。次は体育だぞ優人」


「……おう」


 チャイムが鳴った瞬間に席を立った楠木は、パンのゴミを捨てたあと教室を後にした。俺も弁当を片づけて次の授業の準備をする。


 だが、まだ楠木が言った言葉が引っかかっていた。

読んでいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願い致します。

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