再婚
どうもココアです。
本日更新でございます。
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――両親が離婚して、林檎と別れて随分と時間が経った。
父との生活は苦痛と言うほどではなかったけれど、林檎のことを拒絶した父のことを好きになることはできなかった。
それでも「他人」と強く断言することはできない。だから俺はなるべく父と遭遇しないよう、なるべく自分の部屋で過ごすことにしていた。
今は11月。そして中学三年の俺には、高校受験が控えていた。勉強のためと言えば、自分の部屋に引きこもっても文句は言われないだろう。
「……今頃何してんのかな」
回るタイプの椅子に腰掛け、寄りかかりながら天井を見上げる。英単語が繰り返し書いてあるノートにペンを投げ捨て、大きく息を吐く。
何もしていないとつい林檎のことを思い出してしまう。時計の針が刻む音や、足下に置いてある電気ストーブの音。それら全てが耳障りになるほど閑散とした部屋で、俺は林檎のことを思い出していた。
いつも俺の後を着いてきていて、何でも真似ばっかり。この家から出て行く前日も、大粒の涙を流したまま俺の服を離さなかったのをよく覚えている。
「優人、少しいいか?」
――その時、ドアをノックする音と共に父の声が耳に届く。
心臓の鼓動が一瞬だけ大きくなったが、それは直ぐにおさまっていつも通りの大きさに戻る。
「部屋まで来るなんて珍しいな…」
そう言いながらドアを開ける。特に「何か用?」などとわざわざ口に出すことはなく、ドアの前で立つ父に無言で問いかけた。
そして、わざわざ口に出して聞いてこないというのを悟った父が一度咳払いをして話を切り出す。
「あのな優人…ちょっと大事な話があるんだ」
「大事な話?」
いつになく真剣な表情浮かべる父に、少しだけ首を傾げる。こんな風に会話をするなんて一体いつ以来だろうか。
「実はな、再婚しようと思うんだ」
「はっ?」
――再婚?再建?菜根?再婚!?
父の思わぬ一言に、理解が追いついていかなかった。
「今、なんて言った?」
「再婚しようと思うんだ」
再び父に問うが、返ってくる答えは変わらない。平たく言って意味が分からない。今までそんな素振りは一つも見せなかった。帰ってくる時間も変わってなければ、特におしゃれになったわけでもない。日常的な変化は皆無と言ってもいい。
「ちょっと待ってくれ、再婚?いきなり?ってか、いつからそんなことになってたんだ?」
「そうだな…あれはたしか3年前の冬だったか…」
「いい。誘導した俺が悪かったけど、そんな再婚に至るまでの回想に入られても反応に困る。だからその遠い目をしながら語りだすのはやめてくれ」
改めて話してみると、いつもより父のテンションが高いかもしれない。こんなに楽しそうな父を見るのはいつぶりのことだろうか。
「はあ…。まあ、びっくりはしたけど再婚については何も言わないよ。今更そんなことで喚くほど子供でもないし」
理解はしていないが、納得をしていないわけではない。もともと、父のすることにそこまで干渉しようとも思っていないからだ。
そうやって高をくくっていたが、次の父の発言によって全てが覆される。
「お前ならそう言うと思ったが、再婚相手も子供がいるから一応言おうと思ってな」
「子供?」
「ああ。確かお前の二つ下だから、今中学一年生じゃねえか?」
「は、はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
俺は生涯で、今日以上に驚くことはないだろう。
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