ご相談
どうもココアです。
少しだけ更新期間が空いてしまいましたが、いよいよ更新です
よろしくお願いします。
「さてと……」
色々あったけど、夕食を食べて終え風呂に入ってようやく一息つくことができた。大きく息を吐いてベッドに倒れるように飛び込む。
お日様の香りというのだろうか、いつもより爽やかな気分になるような匂いがベッドから漂ってきた。
「……」
何となく、そのままゴロっと転がり真っ白い天井を見る。そして、参考書が積んである勉強机に視線を向ける。
ここ最近、忙しくて勉強をする時間がなかった。別に勉強が特別好きなわけではないけれど、“受験生”ということだけで、勉強しなくてはという気持ちになってしまう。勉強をしないと罪悪感を覚えるというか、寝つきが悪くなってしまう。
ノート半ページ分だけでも単語練習をすればぐっすり眠れる気もするけど、今日はもうベッドから離れられなかった。
「楠木の野郎……今度飲み物でも奢らせよう」
そんなことを呟いたところで、珍しくドアをノックする音が聞こえてきた。
「お兄さん。今、大丈夫ですか?」
ノックの音が聞こえてから数秒後、蜜柑ちゃんの声が聞こえてきた。この時間に蜜柑ちゃんが部屋を訪ねて来るのは珍しい。
すると、さっきまで動かなかったはずの俺の身体が動いて部屋のドアを開けた。
「すみませんこんな時間に……」
ドアを開けると、申し訳なさそうな表情をしながら蜜柑ちゃんが立っていた。“こんな時間”と言っても、まだ22時だし寝るには早いだろう。
「別に大丈夫だけど、どうしたの?」
「えっと、ちょっと聞きたいことがあって」
もじもじと恥ずかしそうに、後ろに手を組む蜜柑ちゃん。そんな仕草も可愛いなぁなどと思っていると、次の瞬間後ろに回していた手を前に出してきた。
「課題で分からないところがあって、教えてくれますか?」
「……」
上目遣いで訴えかけてくる蜜柑ちゃんの手には、教科書とノートが握られていた。俺としては、可愛い蜜柑ちゃんが頼ってきてくれて嬉しいと思いたいところだけど、学校で楠木にこれでもかと言うほど課題を手伝わされたので、“手伝う”ということに臆病になりつつあった。
「ダメ……ですか?」
「~~~!」
しかし、蜜柑ちゃんの頼み事を断るわけにはいかない。
「いいよ。教えてあげるから中に入ってて、テーブルを持ってくるから」
「ありがとうございます!」
俺が頷くと、満面の笑みで喜んだ蜜柑ちゃん。その笑顔が見ることができたのなら、課題を教えるくらいはどうということもないか。と、一人で勝手に納得して別の部屋からテーブルを持ってくることにした。
俺の部屋には一応勉強机はあるけど、それは一人用なので教えるならば少々使い勝手が悪い。
「お待たせ」
テーブルとクッションを持ってきて、部屋の真ん中に設置する。すると、蜜柑ちゃんは直ぐにクッションの上に座って隣に置いてある別のクッションをぽんぽんと叩く。
どうやら俺に座って欲しいようだ。断る理由もない俺は、その誘導にまんまと乗せられて隣に座る。そして、広げられた教科書に目を通す。
「数学か」
開かれていたのは関数のページだった。
「そうなんです。最近、この単元に入ったんですけどさっぱり分からなくて……」
申し訳なさそうに呟く。確かに、関数は覚えることが多かったりするので混乱してしまうのは仕方ない。俺の中1の頃苦労した覚えがある。
「じゃあ基本からやっていくか」
「はい。よろしくお願いします」
少し頭を下げられて、勉強がスタートした。
「ここはこうやって……」
「はい」
実際に解いてみて説明したり、口頭で説明したりと簡単な問題を作ったりと方法を考えながら教えていた。蜜柑ちゃんは覚えが良く、基本を覚えたら応用も解けるようになっていた。
楠木の理解度が皆無だと言うことも分かったところで、俺は一度席を立ってリビングへと向かった。勉強を始めてそろそろ一時間になる。一息入れるためにココアを入れに行った。
「何かお菓子とかあったかな……」
どうせならクッキーとか……と、戸棚を漁ってみたけれどそんなものはなかった。仕方ないと、諦めの息をこぼしてお湯が沸くのを待つことに。
すると、閉じていたリビングのドアが開かれた。
てっきり蜜柑ちゃんが来たのかと思えば、入ってきたのは智子さんだった。
「あら、優人君」
入って直ぐこちらに気づくと、嬉しそうに微笑んだ。
「蜜柑に勉強を教えてるんでしょ?」
「ええ、まあ……」
少し照れくさそうに答えた。
「優人君に蜜柑のことを頼んだけど、そんなこと言わなくても良かったかもしれないわね」
笑いながら智子さんは言った。俺はどう答えを返したいいのか分からず、適度な相槌を打つだけだった。
「それで優人君。少し、相談があるんだけど……」
「相談?」
「ええ。勇人さん、今は仕事が繁忙期だけどそろそろそれが終わるみたいなの」
心底嬉しそうに、楽しそうに語る智子さん。まさかお疲れパーティーでもやろうとでも言い出すのだろうか。嫌な予感を覚えた俺は少し身構えて話を聞くことにした。
「それで、繁忙期が終わったら長いお休みがとれるみたいなんだけど……そこで新婚旅行に行くことにしたの」
「新婚旅行?」
「ええ。結婚式をしない代わりに、二人で行こうってことに……。だから、暫く蜜柑のことをお願いしたいんだけど……」
手のひらを合わせて、精一杯のお願いポーズをとる智子さん。その姿が、一瞬だけ蜜柑ちゃんと重なった。……って言うか、そもそもこれって拒否権は存在するのだろうか。
あの父親のことだ。どうせもう、ホテルとか予約してて旅行の段取りは整っているのだろう。仕事が忙しいということもあるのだろうけど、俺に全く話をしてこないのは止められることを知っているからだ。
「俺は大丈夫ですよ……って言うか、そもそも断れないんですよね?」
「アハハ。確かにその通りね」
全てを悟ったように返事をすると、智子さんは声に出して笑った。まあ別に、予想していたよりも突飛なお願いでもないし、断る理由もないだろう。
せっかく夫婦になったのだから、少しは夫婦らしいことがしたいだろう。
読んで頂きありがとうございます。
次回もよろしくお願い致します。