頼れ
どうもココアです。
よろしくお願い致します。
「どうしてそんな話をしてきたんですか?」
先生の言葉を聞いて、思わず生唾を飲んでしまった。それでも動揺しているような素振りを見せず、あくまでも冷静であることを装いながら問いかけた。
「あー。俺が直接体験したわけじゃないから詳しくはないが……神崎蜜柑に話しかけた男の先生が全員、怖がられているらしい」
「怖がられている?」
「ああ。まあ、男の先生を怖がる女子生徒は別に珍しくないからそれだけなら良かったけど、クラスの男子も怖がっているだろ?」
「……」
「確証がない以上、こっちも下手に行動できないからな。取りあえず義兄のお前に聞いたってことだ」
話の説明が一通り済んだところで、先生は机の上に置いてあるカップ麺に手をかける。どうやら、今はなしているだけで3分が経過していたようだ。カップ麺のふたをあけ、割箸を割って簡単にかき混ぜる。湯気が出ている麺に息を吹きかけて、一気にすする。
……さすが、食べなれているだけあって動きに一切の無駄がない。
「それで?何か知ってることはあるのか?」
「……」
再び先生が質問をしてきた。ここで俺には正直に答えるか、あえて答えないという二つの選択肢が存在する。
どちらもリスクを伴うため、どっちろをとっても賢い選択とはいえない。
仮にここで正直に話せば、先生たちの中で噂が広がる。男の先生は蜜柑ちゃんに近づいたり、話かけたりはしないだろう。それはメリットだが、デメリットはその噂が広がる可能性があるということだ。どこに風穴があるか分からない以上、必要以上に話すことはないはずだ。
だから俺は出来るところまで隠し通すことにした。
「俺は何も知らないですよ」
「そうか……。昼休みに呼び出して悪かったな」
意外なことに先生はそれ以上、質問をしてくることはなかった。てっきりもっと聞いてくるものだと思っていたから、反応するのに時間がかかってしまった。
「えっ、あ、はい」
目を丸くしながら、俺は直ぐに職員室を退散する。なぜなら、いつもの場所で蜜柑ちゃんが待っているからだ。
一度教室へ弁当を取りに戻り、走って目的地へ向かう。今は先生達も昼食をとるために職員室にいるため、廊下を走っても注意をされて止められることはない。
「お待たせ」
「お兄さん!」
目的地につくなり、蜜柑ちゃんが目を輝かせながら迫ってきた。見たところによると、まだお弁当に手をつけていないようだ。俺が来るまで食べずに待っていたと言うことか。何と律儀なことだろう。
「ちょっと先生に呼び出されてな」
「お兄さんが?……もしかして、私が知らないだけでお兄さんは問題児だったり」
何かを期待しているような眼差しを向けてきながら、妄想に勤しむ蜜柑ちゃん。……まあ、中学一年生なら少し不良がカッコイイと思うこともあるだろう。
実際、先生に反抗するのがカッコイイと思っている不良も少なくないはずだ。
「期待してるところ悪いが、俺は別に不良じゃない」
むしろ普通を絵に描いたような生徒と言える。特出することはないし、友達がいないぼっちというわけでもない。悪いこともしないし、良いこともしない。本当に「普通」が服着て歩いているような人間だ。
「少し残念です。先生に怒られているお兄さんの姿を見てみたかったのに」
そっちかい。どうやら蜜柑ちゃんは意外とSっ気があるらしい。
「あ、そういえば今日はちょっと用があるから一緒に帰れないんだ」
「用事ですか?」
「ああ」
今朝、楠木から泣きつかれてしまったことを今思い出した。……くそ、完全に忘れていればバックれることが出来たというのに。
「何でも課題がヤバいらしい。ちょっと付き合うから、先に帰って良いぞ」
「……」
そう告げると、蜜柑ちゃんは気が抜けてしまったように固まってしまった。
「わ、分かりました」
数秒後、意識が戻ってくると焦ったような素振りを見せながら返事を返す。そして直ぐに、不安そうな顔をしながらタコさんウインナーを頬張った。
そうか。思えば、蜜柑ちゃんが来てからは毎日一緒に帰っていたのか。
罪悪感と、楠木への怒りを覚えたところで昼休みが終わってしまった。
――迎えた放課後。
今日は掃除もない日なので、クラスメイトは部活に行ったり帰宅したり行動をする。
いつもなら俺もこのビッグウェーブに乗るところだけど、今日はそういうわけにもいかなかった。
「優人!!」
「何だよ」
「分かってるだろ。助けてくれ!これを提出しないと成績1つけるとか言ってきたんだよ」
帰る支度をする隙すら与えず、楠木が涙を流しながらノートと資料集を持ってきた。
「やればいいだろ?」
「それが出来たら俺は最初からやってるんだよ!無理なの、本当に無理なの!」
……知らんがな。心の中でそう呟きながら、聞き流そうと窓の外を見た。
「ん?」
すると、そこには蜜柑ちゃんの姿が見えた。
しかも一人じゃない。二人だった。俺は思わず見入ってしまった。
「聞いてるか優人?」
「ちょっと待ってくれ」
今はお前の相手をしている暇はないと、楠木にそう告げるて蜜柑ちゃんの姿を目で追う。恐らくクラスメイトだと思うけど、友達が出来たのだろうか。
また転入初日のようなことにならないといいが、ここは下手に行動しない方がいいだろう。
「女子みたいだし……大丈夫だろ」
とりあえず今はそう思い込むことにした。
「何言ってるんだよ」
「お前には関係ねえよ。それで、どこから終わってないんだ?」
蜜柑ちゃんのことを頭の片隅に置いたところで、楠木に意識を向けた。……しかし、楠木が開いたノートは白紙だった。課題のタイトルですら、書いていない。
「全部」
「まじか……」
楠木から出る言葉は何となく予想は出来たけれど、いざ本当に聞くと驚きが隠せない。楠木が全く手をつけていない課題は、本来なら三日前に提出期限のあるものなのだ。
それなのにまだ白紙……。こいつとは昔から一緒だしある程度は分かっていたつもりだけど、俺が理解していたのは本当に上澄みだけだったようだ。
「お前馬鹿だろ」
――こいつは俺が理解していた以上の馬鹿だった。
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