呼び出し
どうもココアです!!
本日更新でございます。
――蜜柑ちゃんと智子さんがやってきて、早くも2週間が経った。
最初の頃は色々あったけど、段々と慣れてきて今となっては普通の家族のように接している。
「お兄さん、おはようございます」
「おはよう」
リビングへ行くと、朝食の準備を手伝う蜜柑ちゃんが笑顔で挨拶をしてきてくれた。会った当初では見ることが出来なかった笑顔が見れて、心が温かくなるのを感じながら椅子に座る。
「あれ?そういえば……」
席に座って改めて気がついた。父の姿がない。いつもは騒がしい声が響いているというのに、今日はとても静かだった。
「おはよう優人君。勇人さんならもう仕事に行ったわよ。今は繁忙期みたいね……昨日も帰ってくるのが遅かったし」
智子さんの話を聞いて俺は夜中のことを思い出す。水分の取り過ぎか、トイレに起きたところで父が帰ってきた。眠すぎて何時くらいに帰ってきたのかはよく覚えていないけど、確かに父は夜遅くに帰ってきていた。
「……繁忙期に再婚って」
もう少しタイミングを考えることは出来なかったのだろうか。父は昔から先々のことを考えないというか、自分が行く道を信じすぎる気質がある。
……いつから智子さんと再婚を考えていたのかは知らないけど、父の性格をきちんと把握しているのかが不安でならなかった。
「お兄さん?どうかしましたか?」
「ああいや、何でもない」
隣に座っている蜜柑ちゃんが心配そうに見つめてきたけど、父のことを考えているだけで心配をかけるわけにはいかない。
俺は手早く朝食を食べ、蜜柑ちゃんと一緒に学校へ向かった。
「蜜柑ちゃん、クラスはどんな感じ?」
転校初日、色々な意味で注目を浴びてしまった蜜柑ちゃん。俺も少しの間クラスで質問責めにあったけれど、適当に流していた。
不安なのは蜜柑ちゃんの方である。女子に絡まれたことを、男子の先輩が助けたことによって直接手を出すことはないと思うけれど、女子のいじめは暴力だけではない。
むしろ暴力よりも、暴言や集団無視……直接手を下さないような陰湿なものが多い。
「……大丈夫です。もちろん、クラスでは浮いてしまってますけど前の学校みたいないじめはないです」
笑顔で答えてくれた蜜柑ちゃんだったけど、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。それを見て、胸が痛くなる。
蜜柑ちゃんがクラスで浮いてしまっている理由の半分は俺のせいだからだ。あの日、俺は蜜柑ちゃんをかばった。先輩が後輩をかばうことは、誰もが想像しているよりも印象が強い出来事なのだ。
“絡んだらまた先輩がやってくる”という認識を与えるには、十分過ぎることをやってしまった。さらに何をしたらやってくるのか、そこの線引きが分からない以上“関わらない方が良い”という判断をしてしまうのだ。
前の学校に比べたら虐められていないだけ別に良いと、蜜柑ちゃんは思っているのかもしれない。でも、出来ることなら楽しい学校生活を送って欲しい。
男友達は無理だけど、女子の友達の一人くらいは作って欲しい。
「蜜柑ちゃんは友達とか……ほしいって思ったりする?」
何言ってるんだ俺。
言った後で自分に問いかけた。
「友達……ですか?」
ほら蜜柑ちゃんも困っている。そりゃあそうよ。そりゃあそうよ。友達は欲しいに決まってる。でも、自分の体質では友達を作ることが難しいことは分かってる。
だから願望はしていたとしても、それを口に出すことはしないだろう。
「……私には贅沢ですね」
そして蜜柑ちゃんはどこか儚げな表情をしながら呟いた。
「……」
俺はその言葉に対して何も返せないでいた。
◆◆◆
「よう、おはよう優人」
「おう楠木」
学校について教室まで歩いていると、ちょうど楠木とすれ違った。
「ったく、朝から見せつけやがって」
「見せつける?」
うらやましそうに睨む楠木を顔を、俺は小首を傾げながら見ていた。
「とぼけるなよ!毎朝毎朝毎朝!!仲良く兄妹で登校してるじゃねえか!」
「ああ~。でも、あれくらい普通――」
「じゃねえからな!言っておくけど、あれは普通じゃねえからな!」
全部言い切る前に、楠木が割り込むようにして言葉を返してきた。妙に迫力を感じる……というか、顔が近い。そして気持ち悪い。
楠木は良い奴で面白い人間だけど、彼女が出来たことが今までない。その理由を垣間見たような気がした。
「さてと」
午前の授業を適当に聞き流して待ちに待った昼休み。今日もいつものようにあの場所で蜜柑ちゃんと一緒にお弁当を食べようと席を立つ。
「神崎、ちょっと職員室に来い」
「えっ?」
席を立ったところで、担任に声をかけられた。
「何か用ですか?」
「用があるから呼び出したんだよ。飯食う前に職員室来いよ、俺が食べる時間がなくなるから」
「ええ……」
いろいろと不満はあるものの、無視するわけにもいかず俺は担任の後を追って職員室へ向かった。
――職員室では既に戻ってきた先生たちが昼食をとっていた。
コンビニで買ってきた先生もいれば、自分で作ったか奥さんに作ってもらったお弁当を食べている先生もいる。
そして……うちの担任は。
「ん?どうした?」
「何でもないですよ……」
雑にカップ麺を開け、お湯を注いだ後に割箸を置いた。何か豪華なお弁当でも出てくるのかと、期待したのが間違っていた。
「それで?わざわざ呼び出したのはなんですか?」
「まあ座れ。別に説教するわけじゃねえから」
まるでカップ麺が完成するまでの暇つぶしのように会話を始める先生。まあ、怒られるようなことをした覚えはないので説教ではないと思っていたけど、やっぱり職員室に呼び出されるだけで緊張感を覚えてしまう。
「一週間ほど前に転入生が来たよな?そして、お前の義妹って話だが」
「ああ。蜜柑ちゃんのことですか?もしかして、初日のことですか?」
あの事件を誰かが先生にチクったのか、でもあの事件に関して俺は別に加害者でも何でもない。むしろ被害者と言ってもいいだろう。丸く収めるためとはいえ、暴力を受けたのだから。
「いや、今回はそのことについてじゃない。……何と言うか、これは確認なんだが……」
先生はとにかく言いずらしそうに、言葉を必死に選んでいるように話す。きっと俺に気を使ってくれているのだろう。
「……その、神崎蜜柑のことなんだが」
「はい」
「――男性恐怖症なのか?」
散々引き延ばして先生の口から出された言葉。予感もしていなかった言葉は俺の胸に深く突き刺さり、それ以外のことに意識を向けることができなくなってしまった。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もよろしくお願い致します。