最終話 予想外でしてよ!
「けれどこの苦労も、今日で終わりですわ」
彼女は晴れやかな気持ちで、今までを振り返る。
その後も沢山奮闘した。
何かにつけて、ベガティーネに絡み。
時に頭の良さを自慢し。
馬鹿にしながら教えてやり。
時にマナーの無さを笑い。
目の前で実演し、格の違いを見せつけ。
時に恋愛相談をされ。
告白なら庶民でもタダだと焚き付け。
……悪役令嬢に、しかもその恋愛相手の婚約者に。
相談するあの子は、大丈夫なのかしら?
ふと、そう思ったが。
気付かなかった事にする。
「ベガティーネと呼んで下さい、ステラ様!」と、嬉しそうに言われた事も、気付かなかった事にした。
まぁとにかく、出来る事は色々やったのだ。
血を吐く想いでカストル王子とも絡んだし。
「あれは本当に辛いですわ……」
本番前にそれを考えて、貧血になりそうになる。
もう今じゃ、どちらが婚約者か分からないくらい、絡んでいる気がする。
気のせいよ。そうよ。
それを応援してくる子たちもいるけど。
気のせいったら、気のせいなのよ!
もう考えない事にして、卒業パーティーに乗り込む。
本当は婚約者と行くのだが。
もちろん、一緒に行くわけがない。
だから。
「では皆様……行きますわよ、せーのっ!」
『ざまぁされるのは、ステラ様だー‼︎』
代わりに後ろに、応援団が沢山いた。
掛け声と共に、皆で拳を突き上げた。
彼らはいつもゾロゾロとついて来て、ステラの真似をして、謎のスローガンまで作っていた。皆、心強い味方だ。
「ありがとう皆様! 私の罪状チラシ製作もそのチラシ配りも、手伝って下さって助かったわ! では舞台に参りましょう‼︎」
わあぁぁっと周囲が沸いて、勇気を貰った。
さぁ、決着の時でしてよ!
首を長くしている、殿下のために。
そして何より、ベガティーネちゃんの為に!
決意を胸に、その入口たる扉を開けた。
ホール中央まで進んで行くと、第一王子とベガティーネがいた。
「あら、お2人ともお揃いで。如何なさいましたの?」
彼女は徹底して悪役令嬢になり切る。
口元に手を添えて、肘に腕を添えて。
片眉をあげ、弧の字に唇をあげて。
ご自慢の悪役令嬢ポーズを決めた!
それを見て、王子は決心したように口を開く。
「オレは……ベガティーネと婚約する……だから!」
キタキタキタ――――!
待ち望んでおりましたのよ、この時を‼︎
彼女の顔は、悪役顔を保てずに喜色に染まる。
「ステラ・ヴィランズ! お前との婚約は、破棄させてもらう‼︎」
思わず小さくガッツポーズをした。
その瞬間、ホール全体がわぁぁぁぁぁ‼︎ と歓声と拍手で包まれた‼︎
状況が掴めない第一王子は、情けない事に周りをキョロキョロと見ている。
ベガティーネは、何故かすごく笑っている。
しかも、応援団はそれでは終わらなかった。
バババッと弾幕が降ろされ、そこには!
『ステラ様、ざまぁ成功おめでとうございます!』
『祝! 婚約破棄‼︎』
『第二王子と末長くお幸せに!』
と、書かれている。
一体いつから用意していたのかしら?
しかもかなり大掛かりだわ。
大変だったのではないかしら?
そう嬉しく思いながら……次の瞬間、瞬きをして2度見した。
「最後の、なんですの?」
「それじゃあ婚約破棄が終わったから、次は僕の番だね」
突然聞こえた、その声に。
不安になり後ろを振り向く。
「……何を言っていらっしゃるの?」
驚きのあまり、目を見開き声が震える。
そこにいたのは。
もちろん、カストル王子だった。
「ステラ・ヴィランズ侯爵令嬢」
そう言いながら、彼は彼女の前に跪く。
「僕と婚約して下さい」
そしてステラの手を取って、その指にキスをした。
わあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ‼︎
先程を上回る割れんばかりの歓声。
鳴り止まぬ拍手が沸き起こる。
ステラは混乱のあまり、先ほどの第一王子と同じように、周りをキョロキョロと見る。
え? 何が起こっておりますの?
婚約破棄しましたのよ?
没落は? 追放は⁉︎
「私、平民落ちするのではないの……?」
困ったように手を頬に当て、眉を下げてそう呟くと。
「なんでそうなるの? 婚約破棄されただけでしょう?」
不思議そうに見上げる、紫の瞳と目が合った。
「えっ……だって私が虐めていたから、その罰として、婚約破棄されたのでしょう?」
何故だろうか。
すごく不安になる。
そんな気持ちで、恐々と尋ねた。
「さっきの聞いてなかった? そんな事、一言も言ってないでしょう?」
「えぇ⁉︎」
微笑みながら言うカストル王子の発言に、驚き慌てて、第一王子とベガティーネの方を見る。
第一王子は片手を腰に当てて、いつも通り偉そうだが怒ってそうではない。
ベガティーネに至っては、飛び跳ねそうなくらいの笑顔で、拍手をしていた。
そしてこんなことを言い出す。
「おめでとうございますステラ様! これでお気になさらず、円満にご婚約が出来ますね!」
「え⁉︎ いえ、私そんなつもりでは……」
「いえいえ! 私分かっておりますよ! だからアルタイル殿下と別れたくお思いになって、私を応援して下さったのでしょう?」
手を振って否定するが。
周りの空気に呑まれているのか、ベガティーネは聞く耳を持たずに微笑んでいる。
「私、アルタイル殿下との婚約より、将来ステラ様と義姉妹になれる事の方が嬉しいです‼︎」
「おい⁉︎ オレの立場はっ⁉︎」
そう話しながらも、彼女は笑顔で手を叩き続けている。本当に嬉しそうだ。
バッと驚きの表情を向けた、第一王子は無視して。
図らずしも、『ざまぁ』が成功した瞬間であった。
第一王子が「……嘘だよな?」と聞いても。
ベガティーネは「本当ですよ?」と返した。
第一王子、涙目である。
ホール全体がお祝いムード。
愛しの主人公も、お祝いムード。
もう、逃げ場がない。
「と、とりあえず! 立って下さいませ!」
どうにかしようと、焦って声をかける。
「誰に話しかけてるの?」
そうこちらを見上げながら、小首を傾げる……策士め‼︎
「カストル様! 嵌めましたわね⁉︎」
顔の温度が上がるのを感じながら、思わず噛みつくようにそう言う。
「いやいや。妬かなかった僕に感謝してよね。ステラったら応援団多すぎるよ。『ステラ様を見守る会』だの、『手助けする会』だの、『ざまぁを応援する会』だの。手を回すのが、どれだけ大変だったか」
「それは初めて知りましたわ⁉︎」
あの軍団、複数組織だったんですの⁉︎
というか、やはり何か吹き込みましたのね‼︎
今更になって、驚きの新事実である。
「ってそれより! ご起立なさって、カストル様!」
「……ステラが許してくれるなら」
「許します! 許しますから‼︎」
何故立つのに、許可が必要なのですか⁉︎
そう思いながらも、推しの悲しそうな顔には弱い。
だから、つい言ってしまったのだ。
それが罠とは知らずに。
彼は立ち上がりながら、ステラに近づく。
「ふふっありがとう……婚約の許可をくれて」
「⁉︎」
抱き締められながら、気付いた時にはもう遅い――彼は狡猾な、罠をいくつも張り巡らせる狩人なのだ。
その腕の中に、無知な子兎は捕らえられた。
一瞬見えた彼の顔は、とても恍惚に満ちた笑顔だった……。
そうして。
残ったのは、祝福の嵐と。
茹で上がった子兎と。
獲物を捕らえて満足気な狩人の姿だった。
「もう離さないよ……」
「いやあぁぁぁぁ⁉︎」
推しの耳元での囁きに、嬉し恥ずかしそして嘆きの悲鳴を上げた。
この先手綱を握れなければ!
彼女は監禁ルートまっしぐらである!
頑張れステラ!
負けるなステラ!
推しとの幸せな結婚のために!
閲覧ありがとうございます!
これにて終了と相成ります。
お楽しみ頂けましたでしょうか?
私としては初の連載作の終了になります!
もし宜しければ、今後の参考にしたいので
感想やこの下にあります、☆で評価して
教えてくださると、とてもありがたいです。
これからの活動に反映したいので!
あ、面白くなかったらやらないで下さい!
押しちゃダメですよ!
面白くなかったらそれはダメですよ!
何卒よろしくお願いします。
最後にもう一度。
お付き合い頂きまして、ありがとうございました!