2話 攻略キャラはクソヤローなのですわ
「でもいきなり殿下の婚約者になった時は、びっくりしちゃったわ。まぁその驚きで思い出したのだけれど」
彼女は最初のターニングポイントへ向かうべく、歩きながらもその思考を止めない。
そして全て声に出ているのは、もうクセというものだ。歩きながら口に出して考えると、考えがまとまると思っている。
殿下というのはこの国の第一王子。
アルタイル・フリンスの事である。
彼は横暴なオレ様である事で有名で、既に2回も婚約破棄をしている。
この後自分も婚約破棄をされる、と考えると……。
全然『ざまぁ』感が出なくないかしら。
とても困りますわ……何故なら!
良いエンディングには!
良い『ざまぁ』が必須だから!
それを台無しにしたのが『クズマジ』の、『クズゲー』……いや、『クソゲー』たる由縁なのだが、分かっていつつも彼女は思ってしまう。
あれもこれも全て王子のせいですのよ‼︎
……ちょっと落ち着こう、と自分に言い聞かせた。
色々重なりヘイトが溜まっていたせいで、安直に考えすぎてしまったと反省する。
「そうですのよ。それでも、アルタイル王子が一番マシなのですから……ちゃんと愛を知れば、優しくしてくれるって証明されているもの」
そう考えながら頬に手を当てて、ため息を吐く。
最終的に彼のルートなら、王妃になれるし、何より愛に目覚めた彼は、とても優しくしてくれる。
……まぁ、そこまでが大変なのだが。
だからステラはゲームより一刻も早く、第一王子が愛に気付くようにするのが目標だ。
そして『ざまぁ』で!
華々しく、くっついて貰ってハッピーENDよ!
……でも、あのリアル対応。
実際に感じると、堪えますわね。
先が思いやられますわ。
はぁ……とまた、ため息を吐きながらもあの日のことを思い出す。
昨日の事のように、とても鮮明な記憶だった。
それは彼女が婚約者に選ばれ、最初に挨拶に伺った時の話だ。
「……『また』婚約者か」
彼は吐き捨てるように、こちらを見て明らかな嫌悪の表情を浮かべ、そう言った。
気の強そうな形の良い眉に、つり目がちな目は青い。輝かしい金髪は少し長めで、襟足を伸ばしたスタイルだ。
顔はやけにいいな、と思ったら。
「気の強そうなつり目、気に入らないな。どうせならもっとオレ好みの、愛らしく淑やかそうなやつなら良かったんだが」
絶句したステラを前にしても、彼はそれに気付かないかのように――値踏みするように、続ける。
「赤毛も錆の色のようだし、黄色い目なのも生意気だ。もっとマシな侯爵令嬢なんて、たくさんいただろうに」
言っておくが。
ステラは見た目を褒められる方である。
気の強いのは否定しないし、つり目なのも否定しないが、第一王子に言われたくない。
お前が言うな、である。
しかしそれを思うより――ショックが大きかった。
今までチヤホヤされてきたのに。
こんなに貶されるなんて。
替えなんて沢山いると、言外に言われた。
こんな人と本当に結婚するのか、と。
頭を殴られたような衝撃は、彼女の記憶を呼び覚ました。
「……失礼な方ですわね」
「ふん。なんとでも言え。オレはお前を好きにならない!」
「ええ、ええ。存じ上げておりますわ」
静かに怒りを募らせながらも。
不遜な態度の王子に当たらないように、腕を組みながら自重する。
ここで婚約破棄になったら!
『ざまぁ』ができない!
もちろん、私がされる側!
……もっといいキャラがいれば、別のENDを考えるのに。このクソシナリオめ。
というか、こっちが『ざまぁ』してやりたいところだが。
私が抑えているのは、あなたの為ではない。
ベガティーネちゃんの幸せの為でしてよ‼︎
だからこそ、優雅に……フッと笑みを浮かべ、口元に手を当てて話す。
「そんな失礼な殿下には、是非婚約破棄をしたくなるプレゼントを差し上げますので――首を洗って待っていて下さいませ!」
悪役らしく、悪い笑みで睨みを利かせた。
そんな捨て台詞を吐いて、その場を去った。
以降、いまだ王子とは会っていない。
ちなみにプレゼントは、ベガティーネの事だ。
実際はあげたくないですわ。
あんな良い子、第一王子にもったいないですもの。
しかしとても不本意だが、第一王子以外の場合ベガティーネは、もっとマニアックな道へ進むことになるのだ。
それではあんまりだから。
すごーく仕方なく。
くっ付けてやるのですわ!
そう意気込んで、今まで色々やってきた。
例えば最初の出会いの場面。
ここでは第一王子とベガティーネが、十字路でぶつかって目をつけられ、パシリにされるのだが。
「あっ!」
遅刻しそうで急いでいたベガティーネは、うっかり第一王子にぶつかった。
「いっつ! なんだよ! 誰だオレに無礼を働いたヤツは!」
「アルタイル、大丈夫?」
「おやおや、可愛らしい子兎ちゃんじゃないですか」
「ん、何こいつ」
腕を押さえて痛がる王子に、その取り巻きたちが次々と反応した。
わかると思うが、最初に喋ったのがツンツンオレ様第一王子だ。憎っくき、でも今回ベガティーネちゃんとくっ付けさせたいやつ。
次が弟のヤンデレ、カストル第二王子。
その次が女好きチャラ男、サディル侯爵子息。
そして最後にメンヘラ、ダイナン伯爵子息だ。
ここで誰に返事をするかで、ルートが大きく変わってくる……だから!
ガサガサッ‼︎
「ちょーっとお待ちになって!」
ズボッと音を立てて、今まで隠れていた木の茂みから、ひょっこり頭を出した。