表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美剣伝  作者: もんじろう
89/90

89

「ああ」


 隼人が頷く。


「俺の強さを探す」


 蜜柑も頷き返した。


 隼人は馬上の人となった。


 四人が、それを見上げる。


「また、いつか逢おう」


 そう言って、馬を進め始める隼人に四人が手を振る。


 隼人も、しばし手を振り返し、そして。


 馬を走らせた。


 街道を魔祓い師の組合所に向けて駆けていく。


 ここに剣士、独り…。


 否。


 独りではない。


(お!? また、どこかへ行くのか? まったく、せわしないったら、ありゃしねぇな。オレもシーカの姉さんの身体に戻るまではいっしょだ。それまでは、よろしく頼むぜ、相棒!!)


 元気溌剌(げんきはつらつ)とした右眼の声が、頭の中に響く。


 こうして剣士と眼玉の新たな旅は始まった。


 その先に待つのは果たして、真実の強さの境地か?


 はたまた、強敵が立ち塞がる凄絶なる剣術地獄か?


「美剣隼人、この戦国を推して参る!!」


 隼人の顔は清々しい笑みを浮かべていた。




 とある街道沿いの宿場町。


 一軒の飯屋。


 真っ昼間だが、割り増しで二階の部屋を借りれば店の女としっぽりと楽しめる。


 そうとも知らずに入ってしまった一人の男が、困り果てていた。


「ねぇ、お願いだよ。何かと入り用でさ。お兄さん、あたいの好みだから、うんと尽くしてあげるから」


 二十代半ばほどの愛嬌あふれる、それでいて(つや)めかしい女に迫られる三十代前半に見える男。


 長髪を後ろで束ね、剣士の風体(ふうてい)


 しかし、座った席に立てかけた刀は、真剣ならぬ木刀であった。


 着物から覗く身体は、細身だが筋肉質で締まっている。


 女はその胸元に細い指を滑り込ませ、撫で回す。


 男に密着させた女の胸元からは、二つの豊かな膨らみが、あわや頂きまでこぼれ出しそうになっていた。


「おいおい、勘弁してくれ」


 男が、ため息をついた。


「つれないこと言わないで。あたいは、お小夜(さよ)っていうの。お兄さんは何て名前?」


「無法丸」


 男が答えた。


「変わった名前ね」


 女が微笑む。


「ねぇ、無法丸さん」


 女の手が無法丸の右手に触れる。


 その手を自分の胸元に、そっと引き寄せた。


「ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ触ってみてよ。お願いー」


 無法丸の耳元で甘えた声を出す。


 無法丸は乱暴にならぬよう、上手くお小夜の手を振り払った。


 それでもめげないお小夜は、とうとう無法丸の(ひざ)の上に、形の良い尻を乗せてくる。


 無法丸が再び、ため息をつく。


「何故、そんなに金が要る?」


 無法丸が訊いた。


「それがさぁ」


 お小夜が急に真面目な顔になった。


「この近くに、ならず者たちの根城(ねじろ)があったの」


 お小夜が声をひそめる。


「ふーん」と無法丸。


「そいつらが街道沿いで、いろいろと悪さをするもんだから、この辺りはすこぶる物騒(ぶっそう)だったのさ」


 無法丸は首を傾げた。


「そうなのか? ここに来るまで、まるでそんな感じはしなかったぞ。平和そのものだ」


「それには理由があるんだよ。この土地のご城主様のご家来衆も迂闊(うかつ)に手を出せなかった、その悪党どもを…百人は下らないそいつらを…」


 お小夜はそこで黙った。


 かわいらしい、くりりとした両眼が無法丸を見つめている。





 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ