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「その答えは、お前が進み続けねば手に入らぬ」
奇妙斎の口調は、いつになく真面目で優しかった。
「修行をつづけよ。お前は若年にして美剣流を捨て、自らの道を選んだ者。他の誰でもない己の強さ、本当の強さにたどり着いて見せよ!!」
奇妙斎の思わぬ檄に、そして言葉の意味に隼人は、はっとした。
「俺の強さ…本当の強さ…」
隼人の双眸に、再び光が輝き始めた。
戦いの疲れも忘れ、久方ぶりに逢えた友たちと朝方まで隼人は語り合った。
隼人の右眼は、すでに閉じている。
決闘の後「オレは少し休むぜ」と右眼は静かになったのだ。
「ええ!? 師匠に遭ったの!?」
隼人の命を救った中村紋人の話を聞いた春馬は眼を丸くした。
「元気だった?」
「ああ」
中村がターシャに追われていたことは伏せた。
中村が「未来」国の一部の勢力に追われているのは春馬も知るところであったが、余計な心労をかけたくなかった。
隼人の右眼についても、春馬は大いに驚いた。
「機械の眼…複雑なからくりなんだね。本当に『未来』国はすごい!! ああ、一度で良いから行ってみたいよ!!」
興奮で顔を真っ赤に染める春馬に、蜜柑を筆頭に皆が微笑んだ。
「燐子」
隼人が妹を呼んだ。
「はい」
燐子が大難から救ってくれた兄を尊敬を込めた瞳で見つめる。
「親父には子細を報せたのか?」
隼人が訊いた。
燐子の顔が曇り、視線を落とす。
「いえ。父上はお忙しいので」
隼人が、さもありなんと頷いた。
己の権勢を維持するのみに必死な父に、いつも家族を優先し、自らを殺す燐子が素直に相談できるはずはない。
もしも報せを聞いたとて、おそらく父は「今はこちらを外せぬ。そちらで善処せよ」と返答するのみであろう。
隼人は自分の父をよく知っている。
「済まない、燐子」
隼人が妹に頭を下げた。
燐子が驚く。
「兄上、何を謝られますか?」
「俺が破門されたせいで、お前に苦労を押しつけてしまった」
「いいえ」
燐子が首を横に振る。
「兄上は兄上の生きたい道をお進みください。燐子には、それが幸せなのです」
「燐子…」
隼人が隻眼を潤ませ、右手で燐子の頭を撫でた。
兄妹の愛に、一同が頬を緩める。
その後、尽きぬ話は続いた。
途中、奇妙斎が「夜更かしは肌に悪い」と女子みたいなことを言い出して席を外したが、他の者たちは早朝近くに、ようやく床に着いた。
そして次の日の朝。
隼人はむくりと身体を起こし、寝所を抜け出すと身支度を整え、外へと出た。
このまま、皆には何も告げず武者修行に戻るつもりであった。
奏に借りた馬が居る道場入口へ向かう。
そこには燐子、蜜柑、春馬、そして陽炎の姿があった。
「ほら、やっぱり!」
春馬が隼人を見て喜んだ。
行動はお見通しということか。
ばつの悪そうな隼人の顔に、四人は笑っている。
「兄上、いくら何でも挨拶無しはいかがなものかと」
燐子が頬を膨らませる。
隼人が困り顔で頭を掻いた。
「奇妙斎様は」
陽炎が言った。
「一番早く寝たのに、未だに高いびき。何度、起こしても起きません。年寄りは早起きのはずですが…」
くすりと笑う。
隼人も笑った。
何とも奇妙斎らしい。
「行くのね、隼人」
蜜柑が訊いた。




