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隼人の動きは止まらない。
白虎と青龍を身体の両脇へと構えると、神速の勢いで突き込んだ。
「俺流、真覇突き!!」
「甘いっ!!」
真紅郎が吼える。
左右の大小の刃で隼人の突きを受け止めた。
これも最初の戦いで真紅郎に破られた攻撃。
真紅郎は、ここから突いてきた刀を広げ、再び怨霊剣を繰り出す腹づもりか?
真紅郎の顔が鬼の形相となり、背後の柊姫たちも憎悪の権化の如く、吼え叫ぶ。
「「「「「「美剣を殺せっ!!」」」」」」
憎悪、剣気、邪気、全てが、ない交ぜとなって隼人の全身へ叩きつけてくる。
それはもはや常人には耐え難い殺意の波動。
しかし。
美剣隼人は。
笑っている。
楽しくて堪らないという風に笑っている。
鬼が。
剣の鬼が、そこに顕現した。
「俺流」
隼人が言った。
黄魔と蒼百合を斬った白虎と青龍から、途方もない力が隼人の腕に流れ込んでくる。
これが鵺の言っていた二刀の隠されし能力の一端なのか?
隼人の身体が、ぎしぎしと捻りを加えていく。
敵の二刀をがっしりと押さえ込んでいたはずの真紅郎の二刀が、がちがちと震えた。
「ぬ…な、何だとっ!?」
真紅郎が驚愕する。
隼人の脳裏には、藤巻を斬った静香の居合いの様子が、まざまざと甦る。
捻りを加え威力を増した斬撃で相手を両断する剣技。
隼人はそれをさらに進め、蒼百合の鉄壁の防御さえも打ち破った。
だが、その先に見えたもの。
不確かで霧がかかったように、はっきりとしなかった形が今、完全に隼人の頭の中に全容を露にした。
もっと捻り、威力を増す。
否。
もっと動き、敵に穴を穿つ。
(うおおおおおおっ!!)
右眼が絶叫した。
(何だ、このパワー!? 刀から、どんどん流れ込んでくる!! オレが上手くコントロールしてやるぜ!! ぶちかませーーーーっ!!)
「真覇怒裏鏤っ!!」
隼人の大咆哮。
真紅郎に向かって跳んだ隼人の全身が、すさまじい勢いで回転する。
剣先を受ける真紅郎の二刀が火花を散らし、猛烈な振動に甲高い悲鳴を上げた。
真紅郎の顔が歪む。
(耐えろ!! これを耐えきれば!!)
心中で真紅郎は叫んだ。
背後の怨霊たちも、すさまじい叫びを発する。
隼人の回転は、さらなる速さを加え、前進していく。
「うおおおおおおっ!!」
真紅郎の二刀の刀身にひびが走った。
そしてついに。
城門は崩壊した。
真紅郎の二刀の刀身が粉々になり、四散する。




