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「やむを得まい…」
柊姫が言った。
やはり、不満げではある。
「それでは」
蜜柑が素早く口を挟む。
「美剣家、美剣燐子と八神家、獅子真紅郎による真剣勝負を二日後の朝、執り行うものとする!! 見届け人は、この小諸蜜柑が務める!!」
二日後。
早朝より決闘の準備が行われた。
燐子はあくまでも単身戦う覚悟で、他の者に危険が及ぶのを嫌がったため、美剣の門弟は誰も道場に来ないよう、きつく指示を出した。
よって、道場の庭に試合場の陣幕を張る作業は、蜜柑と春馬の護衛の侍二人が引き受けた。
果たし合いと言っても、お膳立てはその程度しかなく、すぐに作業は終わった。
屋敷の庭側の戸は全て解放され、一望できる座敷内の中央に蜜柑が陣取る。
その隣には春馬、陽炎、奇妙斎。
皆、庭に作られた試合場に身体を向けている。
陽炎は燐子と真紅郎の真剣勝負が決まり、敵が道場より一旦、引き上げた後の話し合いを思い出していた。
燐子を道場に残し、蜜柑、春馬、陽炎、奇妙斎は外へと出た。
護衛の侍二人は入口で待たせる。
「蜜柑様」
道場内の燐子に聞こえぬよう、陽炎は声を落とした。
「獅子真紅郎は柊姫たちを取り込み、もはや怪物そのものです。燐子さんが一対一で勝てる見込みはありません」
「分かってる」
蜜柑が答えた。
「では?」と陽炎。
「元々は時を稼ぐための方便。燐子さんが危険なら、すぐに合力する」
「みっちゃんを呼ぶんじゃろ?」
奇妙斎が口を挟む。
口調は軽い。
「そのことですが」
蜜柑が神妙な顔つきになる。
「実は隼人のおじいさんは呼べません。燐子さんが真剣勝負の決意を語られた辺りで、霊が姿を消しました」
「な、何じゃとっ!?」
奇妙斎が大声を出す。
陽炎が人差し指を口の前に立て「しー」と、嗜める。
「それでは、わしらであの怪物を何とかせんとならんのか!?」
声は弱めたものの、奇妙斎の顔は、明らかに怒っている。
燐子が勝負すると言ったところで、いよいよ危なくなれば蜜柑が「大剣豪」美剣を呼び寄せ、あっという間に片を付けるだろうと、たかをくくっていたのだ。
そのあてが外れ、大いに慌て始めた。
「ええ」
蜜柑が頷く。
「みっちゃんめ、面倒事を押しつけおって…」
奇妙斎は、しつこく怒っている。
「これでは、呼ぶ呼ぶ詐欺じゃな」
「僕の『エレメントシェル』と陽炎さんの『魔祓いの首飾り』、それと奇妙斎さんで燐子さんに加勢しないと」
春馬が言った。
春馬の「バックパック」には「未来」国の道具「エレメントシェル」が入っており、敵にぶつければ強力な炎を浴びせることが可能だ。
「それだと、わしが前衛になりゃせんか?」
奇妙斎が愚痴る。
「最悪の場合の想定は必要ですが」
春馬が胸の前で腕を組む。
「二日の内に隼人が着けば大丈夫。必ず勝てます」
春馬が、にこりと笑う。
かつて共に旅した隼人に全幅の信頼を置いていた。
「何故もっと勝負の日を伸ばさなかったんじゃ! 十日後にでもすれば、確実に隼人が間に合うじゃろ!」
奇妙斎が蜜柑を責める。
「いやいや、無理ですよ」と春馬。




