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「現実的に」
それまで口を閉ざしていた春馬が、声を発した。
燐子を見つめる。
「僕は眼の前で隼人の妹さんが斬られそうになったら、たとえ決闘の作法違反になったとしても、助けずにはいられない。それだけは先に宣言しておきます」
春馬の意見に蜜柑は大きく頷き、燐子は顔をしかめた。
やはり、燐子の中には一対一の果たし合いで決着を着けたい、強い気持ちがあるのだ。
相手が複数だとしても、おそらくそれは変わらない。
「皆様」
燐子が再び、頭を深々と下げた。
「どうか、私のわがままをお許しくださいませ。美剣燐子、一生の願いにございます」
皆、押し黙った。
沈黙が続く。
奇妙斎が、ゆっくりと道場の入口を振り向いた。
「やれやれ、まったく意見がまとまらぬな」
奇妙斎より、やや遅れて燐子と陽炎も、その気配に気づいた。
どす黒い邪気と剣気。
陽炎は右手に小刀を構え、燐子も刀の柄に手を置いた。
奇妙斎、陽炎、燐子の三人が入口側に向き、立ち上がる。
さすがに蜜柑と春馬も、三人の緊迫した様子に、はっとなった。
護衛の二人の侍が蜜柑と春馬、それぞれの前に出て、刀に手をかける。
「意見をまとめる暇は無かったな」
奇妙斎が言った。
「さて、どうする、皆の衆?」
道場の入口に立つ一人の男。
獅子真紅郎であった。
真紅郎の背後に浮かぶ暗闇の中に、後藤の顔が現れた。
その視線は一番奥の蜜柑に注がれている。
「居たぞ! あれが降霊術の女だ!!」
後藤が叫んだ。
真紅郎が頷き、道場内へと歩を進める。
奇妙斎を中心に左右に並ぶ陽炎と燐子の前方、二間(約3.6m)ほどのところで足を止めた。
「女」
真紅郎が言った。
落ち着いた低い声。
「降霊術で『大剣豪』美剣を呼び寄せよ」
これには陽炎が青ざめた。
敵の狙いは燐子から、蜜柑へと移っているのではないか?
直接、「大剣豪」美剣に恨みをぶつけようという腹づもりか?
懐の「魔祓いの首飾り」をぐっと握りしめる。
真紅郎の要求に、蜜柑は返答に窮した。
燐子の先ほどの決意宣言によって「大剣豪」美剣の霊は、もはやここには存在しない。
しかし、敵に現状をそのまま伝えるべきか?
それを知れば、この真紅郎なる男はどう出るか?
蜜柑は迷った。
「獅子真紅郎!」
沈黙を破ったのは燐子だった。
真紅郎が燐子に視線を移す。
「美剣家長女として、尋常な果たし合いを申し込む」
今度は真紅郎が答えに窮した。
剣士としては、面と向かって挑まれれば勝負を受けるのは、やぶさかではないのだが。
真紅郎の背後を染める闇に、柊姫の顔が浮かんだ。
「美剣燐子は後回しじゃ。霊を呼び寄せよ、女!!」
柊姫が強い口調で命じる。
主筋にそう言われれば、真紅郎は黙るしかなくなる。
「蜜柑様は美剣家とは関係ない!! 私と勝負しろ、真紅郎!!」
燐子が叫ぶ。
真紅郎が沈痛な表情を浮かべる。
「黙れ、お前は引っ込んでおれ!! 早う呼ばねば、ここに居る者を皆殺しにするぞ!!」
柊姫が蜜柑を恫喝した。
ここで蜜柑は、はっとなった。
ある妙案が浮かんだ。




