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「良かった、追いつけました!」
「どうして、ここに!?」
「美剣さんの居場所が分かる魔道具を仲間に造ってもらいました。とても心配だったので」
奏が馬から降り、隼人の前に立つ。
心底、ほっとしている表情だった。
「途中で美剣さんの反応が消えてしまって…それで何かあったのではないかと、仲間と馬で追ってきたのです。ご無事で本当に良かった」
奏の両眼には涙が滲んでいる。
隼人は奏の両腕を両手で、がしっと掴んだ。
「ええ!?」
突然の接触に奏が顔を赤らめる。
「奏さん、馬を貸してくれないか!?」
隼人は、もう一頭の馬に乗る奏の仲間の魔祓い師の男に、ちらりと眼をやった。
これなら、隼人が馬を借りても奏は帰る手段がある。
「馬を!?」
奏は面食らったが、すでに隼人のある程度の事情は知っている身、すぐに察して頷いた。
「分かりました、どうぞ使ってください」
「ありがとう!!」
嬉しさのあまり、思わず奏を抱きしめる隼人。
突然の抱擁に、奏は差し上げた松明を落としそうになった。
松明の灯りで判別しにくいが、相変わらず、顔は赤い。
隼人はすぐさま奏を離し、馬上の人となった。
手綱を引き、馬首を変え、街道を走りだす。
あっという間に、その姿が見えなくなった。
それを見守る奏に、馬上の魔祓い師が声をかける。
「何事でしょう?」
「もちろん、八神家の魔物たちとの戦いです。とにかく、美剣さんの役に立てて良かった」
奏は、ほっと胸を撫で下ろした。
そこで真剣な顔になる。
「美剣さん、どうかご無事で。ご武運を」
奏の小さな声は、夜の闇の中へと溶けていった。
朝方、美剣道場の板間に座り、蜜柑と春馬は、昨夜、帰ってきた陽炎、燐子、奇妙斎の報告を黙って聞いていた。
二人の左右には護衛の侍が一人ずつ座っている。
陽炎の話が終わったところで、蜜柑が口を開いた。
「では、柊姫は未だに生きているのですね?」
陽炎が頷く。
「家臣たちの亡霊と一体化して飛び去ったので…おそらくは真紅郎なる者のところへ」
「真紅郎とは八神家臣、獅子真紅郎。祖父に斬られた者の一人です」
燐子が言った。
その顔は、暗く沈んでいる。
燐子本人に責任はないとはいえ、自らの一族を狙った騒動に蜜柑たちを巻き込んでしまった罪悪感か?
「また、燐子さんを襲ってくるおそれがありますね」
蜜柑が燐子を見つめた。
燐子が、口を真一文字に引き結ぶ。
「ですので、蜜柑様と春馬様は護衛のお二方と共に、小諸城へお帰りください」
陽炎が言った。
「私と燐子様、そして奇妙斎様で敵を迎え撃ちます」
「何故、わしを加える!!」
奇妙斎が怒った。
「年寄りを危ない目に遭わせるもんじゃないぞ!」
陽炎が奇妙斎を見つめる。
奇妙斎も、にらみ返す。
しばしの沈黙。
「蜜柑様、お早く」
陽炎が蜜柑を向き、言った。
「わしを無視するな!!」と奇妙斎。




