75
十中八九、敵が有利。
ならば、残りの一を掴むのみ。
隼人の顔は窮地に落ち込むどころか。
笑っていた。
楽しくて堪らないと言わんばかりに、笑っていた。
(勝負っ!!)
隼人が蒼百合に向けて、走りだす。
「死ねっ!!」
蒼百合が叫び、剣を振るう。
剣の先端が唸りを上げ、隼人に突進する。
(ヘイヘイヘイ!!)
隼人の頭に右眼の声が響いた。
(無謀な賭けに出やがって!! オレは自分の身を守らせてもらうぜ!!)
隼人の右眼が開き、光り輝いた。
「マシン眼!!」
隼人の知覚が変わった。
二刀で弾いた、敵の剣のその後の動きが、手に取るように分かる。
うねり、伸び、疾る剣先と刀身を全て見切っていく。
かわし、跳ね返し、叩き伏せる。
隼人自身はそれを続行しながら、蒼百合へと突っ込んでいく。
「なっ!?」
蒼百合が動揺する。
(何だ、この動きは!?)
先ほどまでとは完全に別次元の動きである。
あらゆる攻めをしのぎ切られている。
このままでは。
隼人は刀が届く位置まで、やって来る。
「ぬうっ!!」
蒼百合は、すさまじい状況の変化に対応した。
剣を最大限まで伸ばし、右手を高々と差し上げる。
剣の根元から螺旋を描いた刀身が、蒼百合の全身をとぐろを巻くように包み込む。
あらゆる攻撃を防ぐ、鉄壁の守り。
これが蒼百合の勝利への策。
隼人の攻撃を防ぎ、その隙を狙って反撃を繰り出す。
刀身の僅かな隙間から、蒼百合が隼人をにらみつける。
蒼百合の前に立った隼人は、二刀を鞘に納め、右腰の青龍を左腰の白虎と並び差した。
二刀の柄を握り、上半身を左へ捻っていく。
後頭部が蒼百合に向いた。
「くっ」
蒼百合が、うめいた。
一見、隙を見せたかの如く映る相手の身体から、尋常ならざる殺気が放出されていると気づいたからだ。
今、守りを解き、隼人に襲いかかれば、逆に斬られる。
それが、まざまざと分かる。
蒼百合の額より流れ出た汗が顎を伝い、滴り落ちた。
ならば、このまま守りきる。
その先にこそ、活路があるのだ。
一方の隼人は、静香の居合いを模倣した「双昇牙」の体勢に入りながらも、頭に浮かんできた、さらなる発想を実際の行動で試し始めていた。
すなわち。
「双昇牙」の威力をもっと高められないかという考えである。
否。
そこに留まらず、その先に。
大きな変換のような…今はまだあやふやとしか言えないが、何か全く違う、新しい光のようなものが見え隠れしている気がしてならなかった。
とにかく、その手がかりを掴むためにも。
前に踏み出す必要があった。
隼人は左足を横へずらし、さらに身体を捻った。
居合いの威力の土台となる部分を変化させたのだ。
腰が落ち、居合いを放つ際には跳び上がる形となる。
蒼百合は、この奇妙な構えに、ぎりぎりと歯噛みした。
分からない。
分からないだけに恐ろしい。
再び、汗が滴り落ちる。




