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美剣伝  作者: もんじろう
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「始めよう。お前の妹と降霊術の女も控えている」


 蒼百合の言葉に、隼人が顔色を変えた。


 妹の燐子が狙われるのは分かっていたが、「降霊術の女」とは?


(まさか!?)


 隼人には心当たりがある。


 以前、春馬と共に旅をするうちに出逢った一人の少女。


 小諸信竜の娘、蜜柑姫。


 彼女には、場所や人物に(ゆかり)が深い者の霊を呼び出し、自らの身体に宿らせる特殊な能力があった。


 柊姫と八神家臣たちは、蜜柑の能力を知っているのか?


 だとすれば、その狙いとは?


(じじいを呼び寄せて…恨みを直接、晴らすつもりか?)


 隼人の心を不安が駆け抜けた。


 もし、隼人の推察が正しければ、美剣のいざこざに友を巻き込む形となる。


 しかも「大剣豪」美剣が敗れしときは。


 蜜柑も犠牲となる。


 それは隼人には耐え難きことであった。


(早く…早く真紅郎に追いつかないと!!)


 隼人の気は焦った。


 しかし今、眼前には執念の女剣士が立ち塞がっている。


 蒼百合が右手で長刀を抜き、高々と差し上げた。


 刀身が月明かりを反射する。


「獅子流」


 蒼百合が言った。


「怨霊剣、(あお)


 蒼百合の右腕から真っ黒な闇が噴き出し、刀を飲み込んだ。


 そして、その闇が新たな刃を形造っていく。


 通常よりも長さも太さも倍になった異形の刀が、そこに出現した。


 刀身は両刃で左右対称、蛇腹状になっている。


 この剣からも、蒼百合の全身より立ち昇る邪気と同質の気配が、否、ともすれば使い手をも凌駕(りょうが)するほどの禍禍(まがまが)しい妖気が、周りの空気をみしみしと(きし)ませる。


 対する隼人も両脚を開き、やや腰を落とした。


 右手で白虎、左手で青龍の柄を握る。


 二人の間合いは三間(約5.4m)ほど。


 お互いの刀は届かない。


 蒼百合が動いた。


「美剣、死すべしっ!!」


 咆哮と共に蒼百合の右手が邪剣を振り下ろす。


 もちろん、まだ刃先が届く距離ではない。


 しかし。


 瞬時に剣が刀身を伸ばした。


 蛇腹状の部分が収縮し、隼人へと(はし)る。


 届かぬはずの間合いより飛来した攻撃を隼人は刹那の抜刀で迎え撃った。


 二刀が蒼百合の剣の先端を弾き返す。


 その勢いのまま、隼人が蒼百合に向かって走り出そうとしたが。


 蒼百合が右手をもう、ひと振りすると、弾かれた剣の先端が(むち)の如くうねり、再び隼人へと突進した。


「ちぃっ!!」


 隼人が身をひねって、ぎりぎりで攻撃をかわす。


 隼人の左頬から、少量の血が舞った。


 蒼百合が、再び右手首を返す。


 隼人の頬をかすった伸びる刀身が横に滑り、今度は敵の首を狙っていく。


 隼人が二刀を上げ、受けきるが、強烈な威力に後方へ押し飛ばされた。


 着地したところに、またも蒼百合の剣が襲いかかる。


 かろうじて隼人が横へ跳び、避けた。


 隼人の横を抜ける刀身がさらに伸び、背後で曲線を描いて後頭部に迫る。


 隼人が二刀を背後で交差させ、弾き返す。


 衝撃で隼人の身体が、ぐらりと前につんのめる。


 蒼百合の剣が、元の形へと戻った。


 隼人も体勢を立て直し、二刀を交差させ、構える。


「くくく」


 蒼百合が笑った。


 自信の笑み。


 今の攻防で、はっきりと分かった。


 美剣隼人、恐るるに足らず。


 次の攻撃をしのぎ切るのは、不可能。


「敗れたり、美剣隼人!!」


 蒼百合の言葉の意味を隼人も理解した。


 深く息を吸い込み、吐く。





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