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柊姫なる、この度の首魁に与する輩は果たして、鬼庭一人だけか?
どうもそうは思えない。
すると鬼庭のような死人の敵が徒党を組んで隼人を襲う事態となりはしないか?
そ奴らが真っ向勝負するならまだ良いが、何か卑怯な策を用いるのでは?
いくつもの不安が無法丸の頭をよぎる。
(こんなことなら、まだ俺が狙われた方がましだな)
無法丸は大きくため息をついた。
優しい男なのであった。
さて。
練気を操る名もなき流派の剣士、無法丸にそこまでの心労をかけているなどと、露ほどにも思っていない当の本人であるが。
「美剣さん!!」
早朝、京の魔祓い師組合所を訪れた隻眼の少年剣士の姿を見て、魔祓い師の少女、奏が慌てすぎ、まろびかけつつも走り寄った。
「よ、よう」
組合所の立派な玄関に立つ隼人は、相手の手放しの喜びように照れてしまったのか、やや顔を赤らめた。
癖のある黒の短髪。
右眼には刀の鍔が眼帯代わりに紐で括りつけられている。
薄緑の着物に下は山袴。
十七、八歳というところか。
少年だが、なかなかの体格。
着物より覗く両の腕は猫科の獣の如く、しなやかで筋肉質であった。
両腰にそれぞれ一本ずつ刀を携えている。
隼人に駆け寄った小柄な美少女、奏も少年剣士とほぼ同年齢か。
胸元までの真っ直ぐな美しい黒髪。
前髪は眉上で横一直線に切り揃えられている。
くりりとした両の瞳が何ともかわいらしかった。
「来てくださったのですね」
満面の笑みで言う奏に隼人が頷く。
半年ほど前、二人は出逢った。
今、二人が向かい合う魔祓い師の組合所が「魔武士」なる異形の者たちに襲われた事件。
魔祓いの技が一切効かぬ敵に手も足も出ない奏を、突如、現れた「未来」なる国よりやって来た女「ターシャ」が救った。
その後、魔武士の総大将を倒す魔祓い道具「魔弾」を完成させる旅に出た二人の女は、その道中で「円月」という魔武士の剣士に生命の危機まで追い詰められる。
もはやこれまでと思われた、そのとき。
円月を斬って二人を助けたのが、少年剣士美剣隼人であった。
その際、奏が自らの素性を隼人に明かし、助けてもらった礼をしたいから、いつでも組合所へ立ち寄って欲しいと約束を取り付けたのだ。
そして今日、諸国を武者修行している隼人が、どういう流れかは分からぬが、ついに約束を果たすため、奏の元を訪れたというわけである。