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「む」
藤巻が目ざとく、隼人の変化に気づいた。
「やはり、こやつは強敵。さっさと二人で片づけるぞ」
「藤巻さーん!」
黄魔はまだ、ごねている。
藤巻が腰の長刀を抜き、隼人に向かって一歩を踏み出さんとした、刹那。
生暖かい一陣の強風が、三人の顔を叩いた。
全員が、その風に思わず両眼を閉じる。
ほんの少しの後、三人の眼が開く。
女が居た。
先ほどまでは確かに居なかった女が、隼人のすぐ後ろに立っている。
真っ黒の剣士装束。
腰に長刀と脇差し。
長い黒髪を腰辺りまで垂らしている。
顔は美しく、色が極度に青白い。
細い首の半ばほどに、真一文字に刀傷がある。
まるで一度、切断された首を繋ぎ合わせたような痕だ。
女から立ち昇る異様な磁場の如きものが、黄魔と藤巻に絡みつく。
女のぎらつく双眸が、八神家臣をにらみつけた。
黄魔と藤巻は、突然、現れた謎の女の尋常ではない闘気に、やや呑まれている。
女が隼人の右横に歩を進めた。
「隼人」
女が呼んだ。
隼人が女を見る。
「静香さん!?」
そこに立つのは、確かに静香であった。
隼人とはかつて、鬼道信虎を倒す際に共に戦った仲だ。
「何をしている?」
隼人の顔は見ず、静香が問うた。
「え?」
隼人が戸惑う。
「何って…斬り合い…」
「面白い」
静香が、にやりと笑った。
「私も混ぜろ」
「混ぜろって…」
隼人が苦笑する。
静香が、さらに前に出た。
「私が相手する。どちらからやる?」
「ちょっ、静香さん!!」
隼人の抗議を静香は無視した。
「何なら、二人いっぺんでもいいぞ」
静香の言葉に、黄魔と藤巻が顔色を変えた。
「ふざけるなよ、女!!」
藤巻が怒鳴る。
「これは我らと美剣隼人の決闘! 邪魔者が出しゃばるな!!」
「ふふふ」
静香の口の両端が、ぐっと上がり、笑い声が洩れる。
「お前に指図は受けぬ。私と立ち合わねば、ただ斬り殺されるのみ」
静香が、さらに前進する。
「ちぃ!!」
静香に対抗して、藤巻も前に出た。
「藤巻さん!!」と黄魔。
「任せろ、黄魔!!」
藤巻が後ろを見ずに答える。
静香と藤巻は、お互いの間合いが二間(約3.6m)ほどのところで足を止めた。
藤巻が長刀を抜き、大上段に構える。
一気に振り下ろし、相手の頭を斬り割る狙いだ。
対する静香は。
鞘に納めた長刀の柄を右手で握り、左足を一歩、退げた。
上半身をぎちぎちと左方向へ捻っていく。
静香の後頭部が藤巻にさらされる。
「おのれ!! 舐めるな!!」
藤巻が憤慨する。
が、すぐにそれが見当違いであると気づいた。




