67
八神家臣を追って、隼人は街道をひた走る。
果たして追いつけるのか?
しかし、敵が燐子を狙い、美剣道場へ向かうのは間違いないはず。
いかな燐子が美剣の剣士で筋が良いとはいえ、奇怪な技を駆使する怨霊剣士たちに立ち向かえるとは思えなかった。
(早く! 早く追いつかないと!)
隼人は焦る気持ちを胸に駆ける。
(間に合ってくれ!)
(おいおい、無理するなよ! ぶっ倒れるぜ)
まただ。
ターシャと別れて以来、新しい右眼が頭の中で話しかけてくる。
(オレはTCのマトリョ・シーカの右眼だ)
初めて話した際、右眼はそう自己紹介した。
(オレがお前の体内のナノマシンの動きを制御して、治療のペースを250%アップさせた。お前がこんなに元気になれたのも、オレのおかげってわけだな。ああ、礼ならいいぜ。オレは心が広いからな。まあ、AIが心って言うのも何だが)
長々と喋る右眼は、所々で隼人には理解不能な単語を話す。
ただ、瀕死の隼人を助けた中村の施術が関係あるのは何となく分かった。
(お前の身体は、ほとんど元に戻ったから、ナノマシンは随時、中村のところへ帰らせるぜ。オレはがっつり、お前の顔に入っちまってるから、簡単には外に出れない。しばらく厄介になるぜ、相棒!!)
(うーん)
隼人は困惑した。
まさか、中村の施術とは別に、死にかけたせいで幻聴がするようになったのではあるまいか?
もしもそうなら恐ろしい。
しかし。
今は不可思議な右眼に構っている暇は無い。
前へ前へ、ひた走る。
真っ赤な夕陽が隼人の全身を照らし、朱に染めた。
「?」
その夕陽を背に立つ、二つの影。
逆光で真っ黒だが、一つは隼人よりも背が低く、痩せている。
もう一つは、ぽっちゃりとして、恰幅が良い。
二間半(約4.5m)ほどの間合いで、隼人が足を止める。
「わあ」
小さい方の影が驚いた。
「本当に生きてたね」
「ふうむ」
太った影が答える。
「これは何とも薄気味が悪いな。死者が生き返るとは」
「あはははは!!」
小さい影が笑った。
「藤巻さん、僕たちも同じだよ!」
「ふはは! 確かにな、黄魔」
太った影が肩を揺らす。
「美剣隼人」
小さい影、黄魔が名を呼んだ。
「僕は獅子黄魔。お前に勝負を申し込む。藤巻さんは見届け人だ」
「いや」
太った影、藤巻が否定する。
「我らは一刻も早く、こやつを斬って真紅郎らに合流せねばならん。遊んでいる暇は無いぞ、黄魔」
「ええー!? 一対一で戦わせてよ!!」
「ならん。二人がかりで早急に、こやつを討つ」
「そんなー」
揉めている黄魔と藤巻を見て、隼人は右手を左腰の白虎の柄に、左手を右腰の青龍の柄に置いた。
両脚を開き、どっしりと腰を落とす。
その全身から剣気が湧き上がる。




