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久しぶりに逢う隼人は服装も変わり、右眼の眼帯代わりの刀の鍔も見当たらなかった。
ターシャ同様、隼人の顔も赤い。
ターシャを見つめる隻眼は戦いにおける猛獣の如き鋭さとは違い、想い人との偶然の邂逅に喜び、きらきらと輝く。
(か、かわいい)
ターシャの口が思わず開く。
(それとワイルドさもあって、私のタイプなんですよね…)
ターシャは、うっとりとなった。
(あ! いけない、よだれ、よだれ)
ターシャが顔を横にぶんぶんと振る。
きりっとした表情になった。
「俺、ターシャさんに逢いたかった!!」
「ええーーーっ!?」
何とか理性を取り戻したところに隼人の素直な言葉を受け、ターシャはさらに真っ赤となって悶絶した。
(キュ、キュン死しますーーーっ!!)
後ろへ倒れそうになるターシャを隼人の両手が、がしっと掴んだ。
「ターシャさん、大丈夫!?」
隼人が慌てる。
「だ、だ、大丈夫ですー」
ぎりぎりで平静を保ったターシャの視線が、隼人の後方に立つ中村に止まった。
「あーーーっ!!」
ターシャが大声を出す。
(そ、そうです! 任務、任務!!)
隼人に左右の二の腕を掴まれたまま、ターシャが「中村紋人ですね!!」と呼びかける。
「そうか」
中村が顎に手を当てた。
「君がシーカの言っていたターシャか」
「シーカ…TCの支援を受けてるようですね。あなたを『時間管理局』権限で逮捕します!!」
ターシャの言葉に中村は肩をすくめた。
「済まないが、それはごめんこうむるよ。たとえ法律を犯そうとも、私は妻を捜す。邪魔しないでくれ」
中村が左手首の帯を右手で触り始める。
それを見たターシャが「逃がしません!!」と、前に一歩踏み出そうとするが。
隼人の両手が、それを許さなかった。
「ちょっ、美剣さん、離して!!」
ターシャが必死に訴える。
隼人の隻眼がターシャを見つめた。
「ターシャさん、ごめん!」
「ええ!? ごめんって…どうしたんですか、美剣さん!?」
「中村さんは俺の命の恩人なんだ。普通なら死んでた大怪我を治してくれた」
「な、な、何ですって!?」
「だから、どんな事情があるのか知らないけど…今回は目を瞑って欲しい!!」
「そ、そんなわけにはいきません!!」
ターシャが怒鳴る。
そのとき、中村の身体が一瞬で、その場から消えた。
「ステルスしたわね! ま、待て!!」
ターシャが隼人の両手を振り払おうとするが、びくともしない。
「美剣さん! お願い、離して!!」
「ごめん!!」
「駄目です! 私も本気を出しますよ!!」
ターシャが隼人の腕を掴み返し、反撃に出ようとした瞬間。
「本当にごめん!!」
隼人がターシャをぐっと抱きしめた。
「あーーーん!!」
ターシャが思わず艶っぽい声を出す。
六尺(約180㎝)弱の上背の隼人の胸の中に、それよりはやや低いターシャの身体が密着している。
お互いの顔が、すぐ側にある。
二人の息がそれぞれにかかる。
「み、美剣さん、離して…」
「嫌だ」
真っ赤になった二人が抱き合う様を見せられて、針と糸の眼が点になっている。
中村は姿を消したままだ。
おそらく、もう逃げ去ったか。
「美剣さん」
ターシャが呼びかける。
「ごめん」
「そうじゃなくて」
「?」
「もう逃げられました。諦めましたから、離してください」
隼人が「あっ」という顔になり、ゆっくりと両腕を離す。
「離して」と言ったターシャの方が名残惜しそうな表情をしている。
二人は、ようやく離れた。




