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柊姫は魔力による探知と後藤の言葉から、すぐに燐子に気づいた。
「おのれ、美剣!!」
柊姫の憤怒の声が響く。
「ほら見ろ」
奇妙斎が言った。
「帰った方が良かったじゃろ」
柊姫の身体から噴出した闇が、背後で渦巻く。
そこに後藤の顔が浮かび上がった。
「あれは!!」
後藤が叫んだ。
「何じゃ?」
柊姫が訊く。
「美剣燐子と言ったのは、お前であろう?」
「いえ!」
後藤が慌てる。
「美剣以外の二人です!」
柊姫が眼を細める。
陽炎と奇妙斎を見た。
柊姫の知らぬ二人。
「奴らはご報告しました『大剣豪』美剣の霊を呼ぶ女の仲間です!」
「?」
「大剣豪」美剣の霊を呼ぶ?
後藤のその言葉で柊姫は突如、思い出した。
後藤が柊姫と合流した際、必死で話していたのは、これであった。
八神家が本来、血祭りに上げるべきは「大剣豪」美剣。
しかし、すでに無法丸によって殺されている。
直接の復讐が果たせぬから、残りの美剣一族を狙ったのだ。
だが今、仇の張本人、美剣の霊を呼び出せる女が現れた。
これを利用すれば八神家臣たちを皆殺した美剣に、本当の意趣返しが出来るのではないか?
その可能性を後藤は、柊姫に力説していたのだったが。
記憶が所々、抜け落ちている。
柊姫は、あまりの悔しさに歯噛みした。
恨みを晴らすため「ネコノミコン」を頼ったというのに強力な魔力に振り回され、千載一遇の好機をふいにするところだった。
今、柊姫の眼前には燐子と美剣の霊を呼ぶ女の仲間が二人居る。
柊姫は蜜柑の霊能力の子細は知らない。
この段階では、いつでも好きなときに霊を呼べるだろうという漠然とした憶測しか持たない。
(それならば)
当初の目論見とは変わるが、柊姫自らが燐子を殺し、他の二人を捕らえる。
そして美剣を降霊させ、恨みを晴らす。
これが最善手ではないか?
柊姫の心は決まった。
柊姫の真っ黒い双眸が、ぎらりと光る。
同時に全身から無数の細い影が飛び出した。
影は先端が槍先の如く尖っており、すさまじい速さで伸び進む。
正面の三人よりも外側を走る影たちは残りの雨戸をぶち破り、そこから曲線を描いて内側へと猛進した。
「前へ行け!!」
突っ込んでくる影の先端を見た奇妙斎が叫ぶ。




