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「この近くに私の知り合いが居る」
「そいつがどんな奴か知らないが、クソの役にも立つとは思えないね」
「彼らは魔糸という特殊な糸と、技を使う。流浪の一族で、転々と居場所を変えている。たまたま彼らの一人の病気を治して親しくなった。あの技なら、この怪我でも縫い合わせられる」
「これを? 元通りに? この時代じゃ無理に決まってるだろ!」
「大丈夫だ。ナノマシンでサポートすれば」
「はっ!! 勝手にしろよ! ほら、使いな」
中村の両手が隼人の右眼の辺りに伸びる。
ずっと痺れているため、隼人には何の感覚も無い。
「AIに任せて神経を繋ぐ。ナノマシンの同調も終わった。これで良し」
中村が笑顔になる。
「マトリョ、彼を運んでくれ」
「何だって!?」
「急いでくれ。私が案内する」
「ふざけんなよ! 何でこんなことまで!」
「頼む! この埋め合わせはいつかするから」
「………クソが………」
隼人の視界が激しく動いた。
女のうなじが眼前に現れる。
隼人の意識が再び、遠のいていった。
柊姫が出家した小さな尼寺へと美剣燐子、陽炎、奇妙斎の三人が到着したのは昼前。
美剣道場襲撃から、三日が経っていた。
空は雲ひとつない快晴。
しかし、寺の門までやって来た三人は、爽やかな空とはまるで違う、沸沸とした妖気のようなものが境内から漂ってくるのを感じた。
「これは」
奇妙斎が顔をしかめる。
「かわいい娘さんと仲良くなれる雰囲気ではないな…」
「尼寺にそもそも、そんな雰囲気はありませんよ」
陽炎が呆れる。
「痛てて! 急に腰が!!」
「はいはい」
開かれた寺の門をまずは燐子がくぐる。
その後に奇妙斎の奥襟を掴み引きずる、陽炎が続いた。
境内の砂利道を進むと本堂が見えた。
本堂からすさまじき妖気が洩れ出ていると「魔」と戦った経験の少ない燐子でさえ、はっきりと分かった。
「おい!!」
奇妙斎が叫ぶ。
「もういいじゃろ! ここは完全に危ない! 帰るとしよう」
「いえ。柊姫様を捜します。子細を確認し、柚子姫様にお報せしなければ」
「生真面目すぎる! 若いうちは、もっと適当で良い! もう帰ろう!! 途中で美味しいものを食べよう!!」
「はいはい」と陽炎。