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「私は居なくなった妻を捜しているだけだ。『未来』国では許されない方法で捜してはいるがね」
中村の皮肉めいた言い方に、隼人が苦笑する。
「とにかく春馬のところに顔を出してやって。きっと喜ぶから。今は小諸城に居る。城の姫様と両想いさ」
「何だって!?」
中村が、のけ反って驚く。
「あの春馬が!? 信じられん!!」
大笑いする。
「恋を知った春馬を見てみたいな。都合が合えば小諸城に寄ってみよう」
中村はそう言った後で、周囲を見回した。
「私はこの辺りを調べなけりゃならない。妻の痕跡が、ここで途絶えた」
隼人は頷いた。
「俺も大事な用の途中なんだ。もう行くよ」
「分かった。また逢えると良いな。春馬と三人で、ゆっくり話したい」
隼人が口を開き、中村に答えようとした、そのとき。
猛烈な殺気が隼人に襲いかかった。
一瞬で背後を振り返り、新しく手に入れた二刀の柄を握る。
辺りに充満するのは殺気だけではない。
おぞましい邪気も隼人の身体に、まるで粘着性を持つかのように絡みついてくる。
隼人の隻眼が暗闇をにらんだ。
居た。
前方の木立の間に四人の影。
「中村さん、逃げろ!!」
隼人が前を向いたまま、背後に叫んだ。
敵は八神の怨霊剣士たち。
間違いない。
しかもこの殺気と邪気、四人の中に恐ろしい凄腕の者が居る。
中村を守りながら戦うのは至難の技だ。
背後の中村の気配が動いた。
離れていく。
これで良い。
隼人は両脚を開き、ぐっと腰を落とした。
右手で左腰の白虎の柄を左手で右腰の青龍の柄を握っている。
「美剣隼人」
四つの影の右から二つ目が言った。
男の落ち着いた声。
「見つけたぞ」
隼人は答えない。
「僕に殺らせて」
左端の小柄な影が言った。
「同い年くらいだし、いいでしょ?」
「黄魔には早いわ」
左端から二つ目の長身の影が言った。
女の低い声。
「私が殺る」
「これ、黄魔、蒼百合」
右端のやや太った影が言った。
「ここは歳上に譲るものぞ」
「藤巻さん、ずるい!!」
「待て」
最初の影が言った。
他の三人が黙る。
「万にひとつもしくじりは許されない。俺が殺る」
そう言った影が前に進み出た。
月明かりで、その姿が浮かび上がる。
獅子真紅郎であった。




