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ターシャが隼人に身体をすり寄せてくる。
そのとき隼人は自分がいつの間にか、生まれたままの姿になっていると気づいた。
密着してくるターシャも裸だ。
猛烈な疑問が湧き上がる。
しかしターシャの柔らかい肢体の感触が、それを瞬く間に押し流す。
「美剣さん」
これで三度、ターシャが囁いた。
「好きです」
隼人の全身を衝撃が走った。
あらゆる強敵を我流の剣術で打ち破って来た少年剣士が、想い人のこの一言によって骨抜きにされた。
「ターシャさん」
隼人がターシャを抱きしめた。
その動きは一流の剣士とは思えぬ緩慢さだ。
「ちゃんと言って」
ターシャが隼人の胸に顔を埋める。
ひんやりとしたターシャの頬が、隼人の心臓の辺りに重なる。
「俺も」
隼人がターシャに囁く。
「大好きです」
それを聞くと同時に、ターシャが隼人に口づけた。
すさまじき嵐のような激しさだ。
脳髄が痺れる感覚に襲われつつ、またも隼人の心に浮かぶのは。
ターシャを深く知っているわけではない。
知性的かつ、かわいらしい印象とは違う奔放で荒々しい性の発露があったとしても、それはけしておかしくはない。
しかし。
(何だ?)
この妙な感じ。
やはり何かが違う。
そう考える間にも、ターシャの美しく艶かしい肢体は密着してくる。
それによって隼人の思考は散々に打ち砕かれ、弾け飛んだ。
もう、どうでも良い。
行き着く果てまで行ってみよう。
そう思い始めた。
すると、突然。
隼人の頭の中に鋭く光る二条の輝きが差し込んできた。
刀だ。
二本の刀が見える。
(白虎…青龍…)
鵺が選んだ二刀。
鵺…?
そうだ…鵺はどこに居る?
魔祓いの魔剣を隼人と繋ぐ儀式の途中ではなかったか?
隼人の思考は混濁した。
ターシャとの延長線上に、何故か二刀が居ると感じた。
二刀から何かが自分へと流れ込み、こちらからも二刀に何かが流れていく。
見上げる隼人の隻眼と見下ろすターシャの双眸が、真っ直ぐに見つめ合った。
隼人は眼鏡の奥で輝く、その美しい瞳の中に、ターシャではない者の存在をはっきりと感じた。
これは別人の眼だ。
積み上げられ高まっていたものが全て。
一瞬にして消えた。
「うおおおおおおーーーーっ!!」
隼人が吼えた。
すさまじき大音声。
虎の咆哮だ。
先ほどまでの夢見心地の動きとは違う機敏さで、ターシャの身体を突き飛ばした。