表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美剣伝  作者: もんじろう
43/90

43

 ターシャが隼人に身体をすり寄せてくる。


 そのとき隼人は自分がいつの間にか、生まれたままの姿になっていると気づいた。


 密着してくるターシャも裸だ。


 猛烈な疑問が湧き上がる。


 しかしターシャの柔らかい肢体の感触が、それを瞬く間に押し流す。


「美剣さん」


 これで三度、ターシャが囁いた。


「好きです」


 隼人の全身を衝撃が走った。


 あらゆる強敵を我流の剣術で打ち破って来た少年剣士が、想い人のこの一言によって骨抜きにされた。


「ターシャさん」


 隼人がターシャを抱きしめた。


 その動きは一流の剣士とは思えぬ緩慢(かんまん)さだ。


「ちゃんと言って」


 ターシャが隼人の胸に顔を(うず)める。


 ひんやりとしたターシャの頬が、隼人の心臓の辺りに重なる。


「俺も」


 隼人がターシャに囁く。


「大好きです」


 それを聞くと同時に、ターシャが隼人に口づけた。


 すさまじき嵐のような激しさだ。


 脳髄(のうずい)が痺れる感覚に襲われつつ、またも隼人の心に浮かぶのは。


 ターシャを深く知っているわけではない。


 知性的かつ、かわいらしい印象とは違う奔放(ほんぽう)で荒々しい性の発露(はつろ)があったとしても、それはけしておかしくはない。


 しかし。


(何だ?)


 この妙な感じ。


 やはり何かが違う。


 そう考える間にも、ターシャの美しく(なまめ)かしい肢体は密着してくる。


 それによって隼人の思考は散々に打ち砕かれ、弾け飛んだ。


 もう、どうでも良い。


 行き着く果てまで行ってみよう。


 そう思い始めた。


 すると、突然。


 隼人の頭の中に鋭く光る二条の輝きが差し込んできた。


 刀だ。


 二本の刀が見える。


(白虎…青龍…)


 鵺が選んだ二刀。


 鵺…?


 そうだ…鵺はどこに居る?


 魔祓いの魔剣を隼人と繋ぐ儀式の途中ではなかったか?


 隼人の思考は混濁(こんだく)した。


 ターシャとの延長線上に、何故か二刀が居ると感じた。


 二刀から何かが自分へと流れ込み、こちらからも二刀に何かが流れていく。


 見上げる隼人の隻眼と見下ろすターシャの双眸が、真っ直ぐに見つめ合った。


 隼人は眼鏡の奥で輝く、その美しい瞳の中に、ターシャではない者の存在をはっきりと感じた。


 これは別人の眼だ。


 積み上げられ高まっていたものが全て。


 一瞬にして消えた。


「うおおおおおおーーーーっ!!」


 隼人が吼えた。


 すさまじき大音声(だいおんじょう)


 虎の咆哮だ。


 先ほどまでの夢見心地の動きとは違う機敏さで、ターシャの身体を突き飛ばした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ