41
鵺が首を傾げる。
「その態度…ちょっと頭にくるね。私じゃ不服? だいたいの奴は喜ぶんだよ」
「とにかく駄目だ!!」
「八神の化け物たちと戦う刀は要らないの? 奴らを滅するんだろ?」
「そ…そんな条件なら要らない」
あくまで拒否する隼人に、鵺は呆れ顔になった。
「死ぬかもしれない瀬戸際で、そんなに嫌がるなんて…あんた、まさか好きな女が居るとか言うんじゃないだろうね?」
「………」
隼人の顔が、さらに赤らむ。
もちろん、頭の中には「未来」国の女、ターシャの顔が浮かんでいた。
一度逢っただけのターシャが、どうしてこれほど気になるのか?
それは隼人本人にも分からない。
ほんの短い時を過ごしたあの邂逅が、これほど自分の心を捕らえるとは。
そこには小諸家の姫、蜜柑に対する実らなかった淡い恋とは違う強い運命のようなものを感じる。
勝手な思い込みかもしれない。
もしやターシャも自分と同じ気持ちなのではないか?
そんな都合の良い馬鹿げた考えも浮かんでくる。
とにかく今、一番好意を抱いている相手は間違いなくターシャだ。
他の女とは出来ない。
隼人は二刀を掴み、さっと立ち上がった。
「俺、行くよ」
鵺に頭を下げる。
「ふふふ」
鵺が笑った。
「ふふふふふ」
次第に声が大きくなる。
隼人が戸口に向かう。
「待ちなよ」
鵺の口調が強まる。
「冗談だよ」
「冗談?」
「そう。何かをするわけじゃない。ただ、刀の側で私と一晩、添い寝はしてもらう。刀とあんたを結ばないと魔祓いの効果は発揮できないから。まさか、それすら嫌だと?」
隼人の顔が曇った。
しかし、小屋を出ていく足は止まっている。
「八神の奴らを完全に殺せる刀だよ。一晩、私の隣で寝るだけ。それで手に入る。迷う必要ないだろ」
隼人がゆっくりと振り向く。
「分かった…」
渋々と頷いた。
その日の夜。
月が上天に昇った頃、鵺の振る舞った鍋で腹ごしらえした二人は鍛冶場に移った。
壁にかけた何振りかの刀の中から、鵺が二本を手に取る。
炉からやや離れた位置にある、畳の間に置いた。
そこには床が用意されている。
急な生々しさに隼人は不安になった。
一晩、添い寝するだけとはいえ、やはり気が引ける。
そもそも、魔剣についての知識は無いに等しいが、こんな方法は聞いたことがない。