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「いつまで突っ立ってる気?」
女が言った。
その口元は微かに笑っている。
「上がりなよ」
女に促され、隼人は囲炉裏端へと上がった。
奏の書状を渡し、女の正面に座る。
二刀は自分の右側に置いた。
女が書状を開き、読み始める。
隼人は黙って待った。
「なるほどね」
女が書状を閉じ、畳に置く。
隼人を見つめた。
「事情は分かったよ」
女の涼しい声は、小屋の中に妙に響く。
「奏には借りがあるから、刀は適当なのを見繕ってやる」
「ありがとう」
隼人が頭を下げる。
身分を鼻にかけぬ隼人の態度に、女は再び口元を緩めた。
「私は鵺」
「俺は美剣隼人」
お互いに名乗った。
「あんた、私の邪気に気づいてるね」
鵺が言った。
隠しても仕方がない。
隼人は素直に頷いた。
「私は魔物と人の間に産まれたのさ」
魔物と人の間に子が産まれる。
隼人は驚いた。
今まで聞いたことがない。
「私はたまたま魔物の部分が弱くてね。それで魔祓い師たちに捕まっても殺されずに済んだ」
鵺の表情は、まるで自分ではない他人の話をしているようだった。
やはり、口元は薄く笑っている。
「奴らは私を見逃す代わりに、魔物を倒す刀を造れと強要した。交換条件ってやつさ。あの頃の…百年ほど前の魔祓い師たちは嫌な奴が多かった。私が奴らの言う通り、魔剣を造っても何だかんだとつらく当たってくる。その点、最近の子たちは優しい。奏も本当に良い娘だ」
鵺の言葉に隼人は戸惑った。
額面通りに受け取れば、眼前の女は百歳を越え、生き続けていることになる。
それは鵺に流れる魔物の血の力によるものか?
「あんた、刀を二本使うの?」
鵺の視線が隼人の二刀に向く。
「ああ」と隼人。
「丁度良い刀が二本ある。元々は四本組だけど、ここに残ってるのは二本だけ。私の魔剣は独特でね。まず、刀と使い手、そして私がいっしょに同じ床で一晩を過ごす。刀と持ち主は私の力で繋がり」
「ちょっと待て!!」
隼人が顔色を変えた。
「一晩を!?」
「何だ? まさか知らないの? 男と女のあれだよ。初めてなら、私が優しく教えてやるよ」
「き、き、聞いてないぞ!!」
顔を真っ赤にして隼人が怒鳴った。
鵺の片眉が、ぐいっと上がる。
「これはここに来た奴にしか言わないからね。奏も知らなかったんだろ。そんな大したことじゃないよ」
隼人は首を大きく横に振った。
「そ、そんなの駄目だ!!」