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三人が歩きだす。
と。
「おーい!!」
闇の向こうから、こちらへ走ってくる気配がある。
三人の前に、ぽっちゃりとした三十路ほどの侍が現れた。
「藤巻さん!!」
黄魔が嬉しげに相手の名を呼んだ。
「おう、黄魔! それに蒼百合と真紅郎も!!」
藤巻が破顔する。
「柊姫様の命を受け藤巻伝八郎、参上したぞ」
妹と弟が藤巻との再会を喜ぶのを見つめ、真紅郎は考えた。
最後の戦いの折り、藤巻も三兄弟と同じく斬り殺されたはず。
あのとき死んだ八神家の面々が全て甦り、柊姫の命を受け、美剣家への意趣返しに邁進しているのか?
先ほどの柊姫の話では、加藤と猿助はすでに美剣隼人に返り討ちにあったようだ。
「大剣豪」美剣の孫、隼人はいかほどの腕前か?
真紅郎は、まだ見ぬ敵への闘志が沸沸と滾り始めるのを感じた。
残念だが「大剣豪」美剣は、もう居ない。
その分の恨みは、残った美剣家にぶつけるのみ。
(美剣隼人。お前の素っ首は必ず我らがはねてみせる)
真紅郎の荒々しい眼差しが、その髪の毛と同じ真っ赤な炎を宿し、めらめらと燃え上がった。
陽菜と別れた隼人は翌日の昼前には、目的の魔剣鍛冶の家へと到着した。
住居と思われる小屋と鍛冶場が併設されている。
隼人は小屋の入口に進んだ。
何と声をかけるべきか悩む。
懐から奏にもらった紹介状を取り出した。
隼人が口を開きかけたところで、小屋の中から「開いてるよ」と女の声がした。
隼人は小屋の戸を開けた。
戸のすぐ側に台所。
そして中央には囲炉裏。
その横で一人の女が座っている。
痩せて色白。
黒に小さな勾玉模様が、いくつも散りばめられた着物姿。
闇の如き濃さの黒髪は胸の辺りまでの長さ。
女と隼人の眼が合った。
女の黒眼の部分は青みがかって、見る者を惹きつける。
隼人もつい無言で見入ってしまう。
女の顔は整っているが、不思議と年齢が分かりにくい。
少女のようでもあるが、一転して隼人より年上にも見えてくる。
「おや?」
女が首を傾げた。
「私が怖いの?」
隼人の無言を怯えと受け取ったか。
隼人は首を横に振った。
実際、恐怖は無い。
しかし、女から妙な気配がするのは確かだ。
只者ではない。
独特の雰囲気を醸し出す女に、隼人は今まで関わった「魔」に属する者たちと似た気配を感じた。
魔祓い師、奏に教えられた魔剣鍛冶が「魔」めいた空気をまとっていようなどとは思いもよらなかった。