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辺りは夜の闇に包まれていた。
燃えるような真紅の赤髪。
短く、逆立っている。
二十代半ば。
六尺(約180㎝)越えの立派な体格。
惚れ惚れするような筋肉質の身体。
鋭く光る双眸に、高い鼻。
何とも精悍で、それでいて整った顔。
身を包む着物は髪色よりも暗めの赤。
黒袴。
腰には黒塗りの鞘に納まった大小二本を携えている。
闇に慣れてきた眼で周りを見回す。
ぼろぼろになった廃寺の敷地内。
足元には簡素な三つの墓がある。
どうやら、この墓の前に倒れていたようだ。
死んだはずの自分が何故?
右手を顎に当て考える。
すると。
「兄者?」
聞き覚えのある女の声がした。
暗闇の中を二つの影が近づいてくる。
「蒼百合か!?」
真紅郎が妹の名を呼んだ。
妹と弟の黄魔も美剣の刀で斬られたはずだが。
月明かりの下、真紅郎の側へ駆けつけたのは、はたして妹の蒼百合と弟の黄魔であった。
蒼百合は切れ長の眼に透き通った白い肌。
冷たい印象を与える美形である。
膝まである藍色の艶めく長髪。
兄の真紅郎にも負けぬ長身だが、こちらは筋肉質ではなく痩せている。
兄より二つ年下。
暗めの青色と黒のまだらの着物に、黒袴。
左腰に二本差し。
弟の黄魔は二人の兄姉よりも、年が離れていた。
十七、八というところか。
背が二人より低く小柄。
兄と姉を足して割った身体つき。
おかっぱの髪の下から覗く瞳は、くりりとしてかわいらしい。
何とも愛嬌のある少年らしい笑顔。
兄の姿を見て手放しで喜び、抱きついた。
黄色に黒で縁取りされた着物に黒の袴。
「兄者!」
蒼百合と同じく黄魔も兄を呼んだ。
「二人とも」
無事だったかと言いかけて、真紅郎は口を閉じた。
美剣によって確かに殺されてはいるのだから、その言葉がどうもしっくりこなかった。
「ね!」
真紅郎に抱きついた黄魔が、蒼百合を振り返った。
「僕が言った通りでしょ!」
得意げに鼻の下を右手の人差し指を横にしてこする。
「そうだね」
蒼百合が笑顔で頷く。
そうすると氷のように冷たい印象が、春風に吹かれたように和らいだ。




