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「死ね!!」
女のしわがれ声が叫ぶ。
「忍びは皆、生かしておかぬ!!」
猿助は両手の小刀を落とした。
鎖を掴むが両脚が踏ん張れず、引き寄せられない。
呼吸は絶たれ、脳への血流も止まり、意識が薄れていく。
(お、おのれ!!)
猿助は声を出せず、心中でうめいた。
一度死に、柊姫の力で甦ったというのに、こんなにも早く再び命を落とすはめになろうとは。
しかも相手は美剣ならぬ奇怪な、くのいちである。
かつて倒された際の遺骨への憑依は解かれ、魂は柊姫の元に帰る。
この失態を何と報告するのか?
まさに恥辱であった。
猿助の意識が途切れる。
それと同時に頭上より怪鳥の如く飛来した女忍びの小刀が、猿助の頭を真っ二つに断ち割った。
隼人が駆けつけると、地に倒れた猿助の死体と、その側でこちらに背を向ける陽菜の姿があった。
陽菜の束ねていた髪が解けている。
「陽菜!!」
隼人の声に陽菜が振り向く。
その右手には、血で濡れた小刀が握られていた。
「無事か?」
「ええ」
陽菜がかわいらしい声で答え、頷く。
猿助の死体から黒煙が立ち昇り、上空で渦を巻いた。
頭を断ち割られた古い骨が残る。
魔剣か魔祓いの道具でなければ、八神家の亡霊たちは倒せない。
隼人は、こうなると分かっていた。
これを知らない陽菜は、驚きで眼を見張る。
「ううむ…」
黒煙の中に現れた猿助の顔が、悔しげにうめいた。
「よもや美剣家以外の者に敗れるとは…腹の虫が収まらん! 女、お前を八つ裂きにしてやりたいが…」
猿助が陽菜をにらむ。
が、すぐに隼人へと視線を移した。
「今は美剣家の抹殺が先…美剣隼人、次こそはお前と戦いたい! たとえ柊姫様や仲間の身体の中であろうとも」
そう言い残すと、猿助の黒煙は彼方へと飛び去った。
(柊姫や仲間の身体の中?)
いったいどういうことか?
隼人には分からない。
とにかく、怪人たちを滅する武器が欲しかった。
隼人が陽菜に背を向け、歩きだす。
魔剣鍛治が住む場所への道筋だ。
しばらく進んで、隼人が振り返る。
「何故、ついてくる!?」
これを言うのは、今日、二度目だ。
「まだ恩を返せてない」
陽菜が答える。
隼人は呆れ、首を傾げた。
不可解であった。




