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加藤の長刀を受け止めた隼人の二刀が、それを押し返す。
加藤が大上段に構えた。
隼人をねじ伏せるべく、すさまじい剣気と邪気が混ざり合う闘気を全身から発していた。
「これで存分に戦えるな」
加藤が言った。
笑っている。
美剣の血を引く者を地獄に叩き落とす喜びを隠しきれないのだ。
一方の隼人は。
こちらも笑っていた。
楽しくて楽しくて仕方がないという風に笑っている。
ぎらぎらと輝く双眸が、微笑む顔と相まって何やら独特な凄絶さを生み出していた。
隼人が、ぺろりと唇を舐めた。
加藤が先に動く。
「美剣、滅ぶべし!!」
怒号と共に大上段の刀を渾身の力で振り下ろす。
先手を取られた隼人も反応する。
「俺流、バツ斬り!!」
常と違い、すでに抜かれた二刀を下からすくいあげた。
これでは鞘走らせる居合い式と比べ、威力が足らない形となる。
隼人の二刀と加藤の一刀が、下からと上から、お互いの丁度中間の地点で激しくぶつかり合う。
二刀の交差するところへ、加藤の一刀が飛び込む状況だ。
二人の攻撃の力は互角か?
否。
やはり振り下ろす一刀が、すでに抜かれた二刀の振り上げよりも力強い。
隼人に対して、やや体格的に勝る加藤の腕力と振り下ろす軌道、そして常人は持たぬ邪気による合力。
これらが一体となり、隼人の斬撃を凌駕した。
「もらった!!」
加藤が勝利を確信し、ぞっとする笑みを浮かべた、そのとき。
「うおおおおっ!!」
隼人が吼えた。
最初から二刀の力が足りぬと分かっていた。
二刀を振り上げると右脚を上げ、同時に左脚で地を蹴った。
右足の裏で二刀の刃を後ろから強烈に蹴り込んだ。
「俺流、バツ斬り改!!」
劣勢であった二刀は援軍を得て、敵の刀身を弾き返す。
加藤の両手は大きく押し返され、大上段の位置まで戻った。
正面が、がら空きの状態だ。
活路を開いた隼人の両手首が翻り、二刀を持ち直す。
両手を身体の横に構える型。
そこからの。
「俺流、真覇突き!!」
神速でもって二刀が加藤の胴体へと叩き込まれた。
「むううっ!!」
加藤がうめき声を上げ、口から血を吐く。
「おのれ…美剣…」
そう言った加藤は地に倒れた。
隼人は勝利の声を上げない。
何故なら。
加藤の死体から黒煙が噴き出したからだ。
やはり。
隼人は思う。
(この刀では八神家の者たちは殺せない…)