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「美剣家に恨みがあるのか?」
無法丸が訊いた。
「ああ、ある」
それまでにこにことしていた鬼庭の顔から、笑みがすっと消えた。
「恨み骨髄というやつよ」
鬼庭の双眸が爛々と光り、その身の邪気がどっと増す。
無法丸が顔をしかめる。
「美剣一族とは、具体的に誰だ?」
無法丸が問う。
鬼庭が右手の指を三本立てた。
「まずは美剣家当主、美剣宗章」
指を一本、折り曲げる。
「そしてその娘、美剣燐子」
二本目を折り曲げた。
「最後は『大剣豪』美剣によって美剣流から破門されし、美剣隼人。こ奴は縁を切られたとはいえ、血の繋がりがあるのは確か。始末せねばならぬ」
三本目が折り曲げられる。
無法丸の片眉が、ぴくりと動いた。
「この三人を血祭りに上げ、美剣一族を滅する。どうだ、痛快ではないか?」
鬼庭が縫の墓を顎で指した。
「その女も無念が晴れ、成仏できるだろう」
「あはははは!!」
突然、無法丸が大笑した。
「な…何だ?」
鬼庭が鼻白む。
「いや、悪い悪い。縫はそういう恨みごととは、一番縁遠い女だったからな」
無法丸が首を横に振る。
「俺はその話には乗れない」
無法丸の言葉に鬼庭の両眼が、さらに糸のように細まった。
先ほどまでとは違う、恐ろしく冷たい視線が無法丸を見つめる。
「おいおい」
突然、鬼庭の口調がぞんざいになった。
「とんだ情けなさよな。深い仲の女の仇も討たぬとは」
「………」
無法丸は黙っている。
「そんな気概もない奴の手を借りたとて、何の役にも立たぬ」
鬼庭が地面に、ぺっと唾を吐く。
「さらばだ、腰抜け」
鬼庭が無法丸に背を向けた。
「待て」
無法丸が呼びかける。
鬼庭が再び、無法丸を向く。
「何だ? 腹でも立てたか?」と鬼庭。
無法丸が首を横に振る。
「いや。俺は心が広いからな」
無法丸が、にやりとした。
「それより、これから隼人を殺すというのが聞き捨てならない」
「隼人…だと? 貴様、美剣隼人と知り合いか?」
鬼庭の無法丸の呼び方が「貴殿」から「貴様」に変わった。
「ああ」
無法丸が頷く。