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白と黒のまだら模様の着物に長短の二本差し。
くせの強い髪を後方で括り、上方へと立てている。
やぶにらみの双眸が、隼人たちをぎろりとにらみつけた。
「美剣隼人」
加藤と呼ばれた侍が言った。
「俺たちの要件は言わずとも分かるだろう」
「八神家か?」
隼人が訊いた。
しかし樹上の忍びと木陰から現れた侍、二人の身体から押さえ切れずに洩れてくるおぞましい邪気が、すでにこの質問に対する答えであることは明白であった。
それにしても。
隼人は、ふと引っかかった。
隼人が魔祓い師組合所で倒した酒井。
なかなかの強さであった。
今、また現れた二人の八神家臣の加藤と猿助。
何故、酒井と示し合わせて三人で隼人を襲わなかったのか?
一度に襲いかかられたなら、さすがの隼人も苦戦は必定。
何か相手方にも戦力を小出しにせねばならない理由があるのか?
「ああ」
加藤が隼人の問いに頷いた。
「美剣家への恨みを晴らさせてもらう」
加藤が腰の長刀に手をかけ、隼人へと一歩踏み出す。
刹那。
隼人の後方に居る陽菜が、右手より棒手裏剣を加藤に向けて投げつけた。
加藤の顔に迫った手裏剣は目標に当たる手前で、上方より飛来した十字手裏剣によって弾き落とされる。
猿助が放った手裏剣であった。
「女。邪魔をするな。お前の相手は俺がしてやる」
猿助が言った。
陽菜は答えず、さらに二投目を放つ構えを見せたが。
同時に樹上から猿助が跳んだ。
放物線を描き、陽菜の頭上より襲いかからんとする。
猿助の右手には、いつの間にか小刀がきらめいていた。
加藤に投げるつもりの手裏剣を陽菜が空中の猿助に投げた。
猿助の小刀が、それを迎撃する。
一瞬の判断で隼人も動いた。
陽菜に飛びかかる猿助が攻撃に移る前に、空中で斬り落とそうと狙う。
しかし隼人の動きを見た加藤が連動するように前へ出た。
腰だめの居合いの一刀が隼人に飛ぶ。
攻撃の速さに隼人は反応した。
猿助の迎撃は諦め、二刀を抜き、加藤の斬撃を受け止める。
隼人からの攻撃を免れた猿助は、小刀で陽菜に斬りつけた。
陽菜の小刀が、これをがしりと受ける。
が。
着地した猿助の動きは止まらない。
いったいいつの間に抜いたのか、左手にも現れた小刀が続けざまに陽菜に斬りかかる。
陽菜の小刀がかろうじて受けるものの、敵の素早い連撃の前で、どんどんと後退を余儀なくされていく。
いつしか忍びたちは剣士二人より離れ、山道の木立の中へと消えていった。




