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美剣伝  作者: もんじろう
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「もしも道中で昨日の魔物に遭ったとしても対処できます」


「私が道案内させていただきます」


 燐子が陽炎に言った。


「元々は美剣家の問題なのですから」


 陽炎が頷く。


 陽炎はかつての戦いで命を落とした妹分の忍び「(りん)」と同じ字を名に持つ少女剣士の腹が()わった様子に好感を抱いた。


「さてと」


 しばらく大人しかった奇妙斎が口を開く。


「では、わしは帰るとするかな。美剣家も何かと立て込んでおるし」


「奇妙斎様は私たちといっしょに」


 陽炎が言った。


「おい」


 奇妙斎が顔をしかめる。


「何故、勝手に決める! 年寄りがおらぬ方が寺への道もはかどるじゃろう!」


「奇妙斎様に来ていただければ、とても心強いのです」と陽炎。


「そんな面倒…いやいや、ああー!!」


 奇妙斎が突然、腰を押さえて上半身を伏せた。


「こ、腰が急に!! 最近、調子が悪くて、悪くて!」


 這いつくばる奇妙斎を見て、陽炎が眼を細める。


 疑いの眼差しだ。


 春馬が必死に笑いを堪えている。


「行きたいのは山々じゃが、こ、これでは無理だのう。ああ、残念、残念!!」


「柊姫は」


 蜜柑が言った。


「誰しもが褒め称える大層(たいそう)な美人らしいですね」


「陽炎、燐子! 何をしておる! すぐに出発するぞ!!」


 奇妙斎の腰が、しゃきっと伸びた。




「何故、ついてくる?」


 険しい山道を進む隼人が振り向いた。


「助けてもらった礼がしたくて」


 陽菜が答える。


 おかしなことを言う。


 と隼人は思った。


 村人たちは確かに隼人が来なければ死んでいただろう。


 しかし、陽菜は自らの忍びの技で野盗を倒せた。


 特別、感謝される覚えはない。


 にもかかわらず野盗たちを退治したときより、ここまで半日ほどを陽菜は隼人にずっとついてくるのだ。


 八神家の甦りし者を倒すため、魔剣鍛治を訪ねる道中。


 また敵に襲われないとは限らない。


 もしも襲撃され、激しい戦いとなれば隼人に陽菜を気遣える余裕があるや否や。


 隼人としては、己一人の方が気は楽である。


「この先は危険だ」


 隼人の忠告にも、陽菜はかわいらしい唇を真一文字に引き結んだまま。


 隼人は両肩を落とした。


 今は陽菜を追い払う時すら惜しい。


「頼むから」


 そこまで言った隼人が、さっと背後を振り返った。


 何者かの気配を感じたのだ。


 やや上方を見て、眼を凝らす。


 居た。


 生い茂る樹上の葉の中、一本の枝の上に、まるで猿のように座った黒の忍び装束の男。


 口元も黒布で覆っているが、白髪混じりの短髪と目元まではむき出しだ。


 男のやや小さめの黒目が、隼人と陽菜をじっと窺っている。


「加藤様」


 黒布でこもる声で、男が言った。


「美剣隼人を見つけましたぞ」


「でかした、猿助(さるすけ)


 猿助と呼ばれた忍びの居る樹の根元辺りの陰から、一人の侍がすっと姿を現した。


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