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「あの侍」
春馬が口を開く。
「『同胞』と言ってましたよね」
「仲間が居るのでしょうか?」と陽炎。
「八神家で生き残っているのは柊姫だけですか?」
蜜柑が燐子を見つめた。
燐子が頷く。
「はい。他の者は皆、処刑されました」
「何て酷い」
春馬が悲しげに首を振る。
「八神家の謀反の計画とは事実ですか?」
「いえ」
燐子の顔が暗くなった。
「八神家が滅んだ後、将軍家に仕える他家の陰謀であったと判明しました」
「そ、そんな」
春馬が青くなって絶句する。
「陰謀を仕掛けた者ではなく、美剣家に復讐とは」
陽炎が眉をしかめる。
「直接、彼らを斬ったのは祖父でしたので」
燐子が静かに答える。
たとえ主筋の命とはいえ、剣に生きる者たちは斬った者の恨みを受け止める覚悟がなくてはならない。
再び蜜柑と燐子の眼が合った。
「柊姫は」
蜜柑が話を戻す。
「今、どこに?」
「出家された尼寺に。ここから馬で三日ほどのところです」
「それはまた…わざわざ美剣家の近くに?」
蜜柑が首を傾げる。
「はい。柊姫様の達てのご希望で決まったようです」
「何か…」
蜜柑が右手の指を自らの唇に当て、眼を細めた。
「理由がありそうですね」
「理由?」と春馬。
「ええ。尼になりながらも美剣家の側に居たい。それは…彼女の中に深い恨みがある証かもしれません」
「ええ!?」
春馬が驚く。
「蜜柑さんは柊姫様が昨日の怪物たちと関係あると思ってるの?」
「怪物は『柊姫様の元へ戻る』と言っていました」
蜜柑が春馬に答える前に陽炎が言った。
蜜柑が、その言葉に頷く。
本来ならば護衛の忍びは雇い主とここまで気安く言葉を交わすことはないが、陽炎が鬼道信虎に捕らわれた蜜柑の弟、竜丸救出に大きな役割を果たしたこと、そして何より蜜柑本人がこの「くのいち」を気に入り、まるで友人の如く扱い、常に忌憚なく意見を述べるように望んだため、これが二人にとっては当然の形となっていた。
「柊姫の話を聞かねばなりません」と蜜柑。
「蜜柑様と春馬様は、このままこちらにお残りください」
陽炎が間髪入れずに言った。
蜜柑が途端に不服そうな顔をする。
「ボクも行きたい。足手まといにはならないから」
蜜柑の言葉に陽炎は、首を横に振る。
「逆です」
「逆?」
「八神の怪物たちが再び、この場所を襲わないとも限りません。万が一のために蜜柑様はここにお残りになり、守りを固めていただきたいのです」
「守り…」
護衛としては主人と離れるなど、型破りな行動ではあるが、それだけ蜜柑を信頼しているとも言える。
「はい。私たちが柊姫様のお話を聞いて参ります」
「でも」
「私にはこれがあります」
陽炎が懐から首飾りを取り出して見せた。
それは以前、魔祓い師、操より譲り受けた「魔」を祓う道具であった。