26
美剣道場が襲撃を受けた日の翌朝。
燐子があの日、稽古に居なかった門弟や美剣家中の者を呼び出し、後藤に殺害された弟子たちの弔いを任せた後。
道場よりやや離れた場所にある美剣家屋敷の一室で、一同は話し合っていた。
一同とはすなわち、燐子、蜜柑、春馬、陽炎、奇妙斎である。
蜜柑の護衛の侍二人は隣の部屋で控えていた。
蜜柑が地方の小国大名、小諸信竜の一人娘と知った燐子は、彼女を自らの下座に置くのに何やら抵抗があった。
考えてみれば自身も美剣家の姫。
そういう意味では蜜柑と燐子は同列の立場である。
しかし普段から荒々しい男たちに混ざり、激しい稽古に明け暮れる自分と、美しくたおやかな蜜柑を比べたとき、妙な気後れを感じてしまうのだった。
燐子は知るよしもない。
一見、大人しく気品あふれる蜜柑は実は今まで何度も死線を越える戦いを経験し、燐子に負けずとも劣らずのお転婆姫なのである。
蜜柑と春馬は以前、美剣隼人と共に旅した仲であった。
二人が小諸城に住み、隼人が再びの武者修行に出てからは一年ほど逢えていない。
それもあって蜜柑と春馬は本人に逢えないまでも、何か隼人の近況でも分からぬものかと美剣道場を訪ねたのだった。
陽炎はある忍びの里の一員であるが、かつて蜜柑たちを大きく助けた。
その後、蜜柑が陽炎の小諸家への常時の働きを強く望んだ結果、里に籍を残したままではあるが、専属の警護役へと収まっていた。
剣豪紫雲、否、奇妙斎は自らの高名を聞き挑戦してくる者たちを避けるため、普段は偽名を名乗る。
たまたま小諸城を訪れた際、蜜柑たちが美剣道場に向かうと知り、「大剣豪」美剣とは剣術を通してよしみがあったことから同行を申し出たのであった。
「宗章の娘が立派になったのう」
奇妙斎が燐子を見つめ、感慨深げに言った。
燐子は有名剣豪に感心され、緊張に顔を赤らめた。
「昨日の怪物」
奇妙斎のまったりとした調子に陽炎が割って入った。
「あれは何ですか?」
「私にも分かりません」
燐子が答える。
燐子の知る範囲、祖父と八神家の確執についてを説明した。
「なるほど。では滅んだはずの八神家の侍が甦って襲ってきたと?」
陽炎がそう言って蜜柑と視線を交わす。
蜜柑は黙っている。
「また死人か」
奇妙斎が呆れた。
「このところ往生際の悪い奴らばかりだのう。わしらに味方してくれる者は、いくらでも甦ってかまわんが。さっきの奴はどう考えても、また現れそうじゃな」
心底、面倒そうな顔をしている。




