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自らが同行すれば足手まといになるからと、隼人に魔剣鍛治への手紙を持たせた奏の配慮のおかげで、かなり早く到着できた。
奏の話では麓の村から山中へと入った先に魔剣鍛治が住んでいる。
「ちっ!!」
隼人が苛立った。
本来であれば闇の中に村の家々の灯りが、ちらほらと見えるか見えざるかとなっていたはず。
ところが今、隼人の眼に飛び込んできたのは村を焼き尽くさんとする猛烈な炎の明るさ。
火勢に怯える馬から飛び降り、隼人は村へと自らの脚で駆けた。
燃え盛る家々の近くに、村人たちを襲う大勢の男が見える。
格好から判断すれば、野盗の類いであろう。
逃げ惑う村人たちを刀を振り回し追いかける数人の野盗が、隼人に気づいた。
怒声を上げ、隼人に斬りかかってくる。
隼人は躊躇なく一瞬で、それらを斬り伏せた。
怒りの形相で走り続ける隼人。
燃やされていない家々の中に入り、狼藉を働く者を見つければ、即座に斬った。
そうやって村中を回り、十二人を斬ったところで、隼人は村の奥に位置する広場のような場所に出た。
野盗三人が、娘二人に迫っているのが見える。
隼人は野盗たちの背中側に居る。
二人の娘のうち、奥側で庇われているのは村の者のようだ。
そしてその娘を背後に隠すように立っている娘は。
黒の忍び装束。
胸元までの黒髪を後ろで括っている。
かわいらしい顔に大きめの瞳が、きらりと輝く。
その右手には小刀が握られていた。
野盗の注意を引きつけるべく、隼人が声を出そうとした瞬間。
「忍法」
忍び装束の娘が言った。
「花嵐!!」
叫ぶと同時に娘の身体から無数の花びらが舞い、渦を巻く。
花びらは三人の野盗たちに吹きつけ、その視界を塞いだ。
突然の予期せぬ反撃に、野盗たちは混乱する。
浮き足立つ敵の隙を突き、娘が一人の野盗を小刀で斬り伏せた。
次の野盗を始末しようと動くが、他の二人は敵の背後より駆けてきた隼人の双剣によって、すでに斬り殺されていた。
「これで最後か?」
隼人が自らに問うた。
辺りに野盗の気配は感じない。
隼人は二刀を鞘に納め、娘たちの前に立った。
「怪我はないか?」
隼人が訊いた。
二人が頷く。
「あなたはいったい?」
忍びの娘は隼人から眼を離さない。
「俺は美剣隼人。通りすがりだ」
隼人の名を聞いた忍びの娘の片眉が、ぴくりと動いた。
「同じく通りすがりの者です。私は陽菜と申します」
忍びの娘が名乗った。